- Parade -

Parade I|じゅうはち

 検問所の外へ出て、背伸びをする。座りながら寝ると、やはり身体が凝ってしまう。凝りがほぐれる音を聞きながら、外の空気を浴びる。


「ん……っ」


 今日も相変わらず寒い。

 なんとか一日が過ぎたようだ。正直、いつまで続くのか想像もつかないが。

 あれから私は、昼食に冷たいパンを少女──ティファニーと分けた。その後、また検問所に戻り、ただ座っていた。緊張は失せたようだが、出会ってすぐには私に慣れないだろうと思い、積極的には話しかけなかった。

 夕食にまたパンを分け、ついでに彼女からシャワーの使い方も教えてもらった。彼女は、また吹き出しそうになっていたけど。こういうところ、私は大人らしい威厳がないなとつくづく思う。

 少女ひとりなら、あのキャビンはそこまで狭くはない。横になってもソファに収まったので、上からタオルケットをかけて眠らせた。二十二時からは私も眠ることを許される。それまでは、検問所の中のテーブルにランタンを置いて、ただ本を読むだけだった。

 そして、また次の日になった。

 それにしても、朝はとても寒い。

 キャビンのドアを開け、少し中を覗く。ティファニーはすーすー、と寝息を立てて安らかな表情をしていた。しばらくしたら、この子にキャビンの鍵を渡すつもりだ。私が立ち入ることはあまりないだろうから。

 ドアを閉じて周りを見渡していると、町の方向から何かが近づいてきていることに気がついた。

 しばらくして、配達ロボットの一種であることに気がついた。

 赤い線は越えず、四角い胴体をパカっと開き、小さな箱と紙をその場に落とした。


「おはようございます。キブンはいかがですか」

「……ああ、良いと思うよ。この箱と紙はなんだ?」

「箱の中身は武器です。十八号ノ狙撃銃エイティーンと、護身用のナイフです。紙は要望書、電気使用量確認書です。目を通してくださいませ」

「また面倒そうなものを」


 紙に目を通す。要望書はそのままの意味で、私に要望がある際に記入するものらしい。金額の制限を超えなければある程度は実現可能とのこと。とりあえず、コーヒーマシンと書いておいた。

 電気使用量確認書も、電気代のことが色々と書いてある……というか、お金かかるのか。

 いや、電気を使えば金がかかることくらいは知っている。だが、監視下に置かれた状態、私の家でもない場所でも払わないといけないのか。こういうのは、私を支配している奴らが負担してくれると思っていたのだが……。

 使用制限は一週間ごとにリセットされるようで、六日後までこの金額──使用量を超えなければいいらしい。そうでない場合は強制的にぶつ切りにされるとかなんとか。

 簡単に言えば、使いすぎるなってことなのだろうが、流石にこの量は少なくないだろうか。コンロや暖房、ましてや照明を少し使っただけで、もう二割ほど使い切ってしまっている。

 文句を言いたいところだが……何が起こるかわからない。


「はぁ……わかったよ。何とかしますよ、はい」

「ご協力ありがとうございます。キョウもステキな一日をお過ごしください」

「嫌味言ってる?」

「ハハっ、まさか」


 紙を渡す。「配達員」はゴトゴトと地面を鳴らしながら町へと戻っていった。

 とりあえず、周りの照明を消しておいた。ティファニーが寝ているから、キャビンの暖房だけは点けたままにした。電気が限られているとなると、少しハードになってくる。

 というか、町に住むあいつらはいつでも電気を使っているだろうに。まったくの不公平だ。

 体内に湧き上がってくる熱い感情を抑えたい。箱を開け、ナイフと十八号を取り出す。特にやることもないし、ストレス発散目的に、少し使ってみようか。いたずらに十八号をセッティングする。十五号と同じ構造なら、私でも使えるはずだ。

 弾を込め、誰もいない地平線に銃口を向ける。ターゲットは何もないが、目線と神経を集中させる。ああ、ストレスが溜まるときはこうしてもいいのかもしれない。

 よくも、私をこんなところに閉じ込めやがって。いや、因果応報だろうか。

 どうでもいい──今は。


「いろいろ言いやがって……ばーかッ!!」


 心の叫びを呟く。引き金を引く。

 鼓膜に響く大きな音と一緒に、中から小さめの弾を吹き飛ばした。

 遥か遠くまで飛び、弾が転がり落ちる音が、遠くから聞こえた。ふーっ、と清々しい息を吐く。なんだか、私はこういうことに、もう馴染んでいるのかもしれない。

 とはいえ、音が大きすぎただろうか。勝手に銃を撃って私が何かを上から言われることが心配なのではない。

 後ろから、ガチャリと音がした。

 ドアを少し開け、右半身だけを外に出し、私と外の様子と……さっきの音の正体を伺っているティファニーがいた。


「ごめん、やはり起こしてしまったね。びっくりしたかな」

「……っ」

「ああ、これは十八号ノ狙撃銃エイティーンって言ってね。さっき来た配達員がくれた武器さ。これは君にはまだ危ないモノだから、別に覚えなくてもいい」


 十八号をその場に置く。

 当たり前だが、この銃の原点は一号と呼ばれていた。

 改良されるごとにどんどん数が増えていき、現在の最新は二十三号とも言われている。風の便りを小耳に挟んだだけで、真偽は不明だが。

 私は昔、十五号を使っていた。だが、十八号に比べれば、まだ使いにくかったし、威力も落ちていると思う。

 十五より、十八のほうが強い。きっと、十八より、二十三のほうが強い。

 そんなわかりやすい進化がこの世界で起きていたのなら、もっと安心できたはずだった。そもそも、こんなに銃を造る必要も、きっとなかっただろうに。

 それでも、私も触ってしまうのは何故だろうか。

 もう、触ることがどういうことなのか、脳が知ってしまったのだろうか。


「朝ごはんにしようか」

「……んっ!」

「ああ、コーヒーも淹れよう」


 金属の臭いが染み付く前に、美味しいモノを馴染ませよう。

 少しでも、この先から目を背くために。

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