第2話④ サントの初陣とラルの尊死
二人が結界の出口をくぐると、そこにはくるぶしが隠れるほどに伸びた草むらが広がっていた。
遠くには幾つもの森や、集団で駆ける魔物の群れが見える。
二人の
「不思議な感じね。ダンジョンって言うから薄暗いイメージだったけど、外の世界とあまり変わらないわね」
背後に浮かぶ白い出入口を振り返りながら、ラルは呟いた。
「第5階層まではこんな感じですよ。第6階層からは暗い洞窟や地下都市に変わってきます。ここから第6階層への入口までは約二日の行程になりますけど、今回は第6階層以降の許可が無いので、ここの
「その辺は大丈夫よ。今日は
――それに出会ったその日にお泊りっていうのもイケナイよね……テヘ。
目を閉じて、何かを想像しながら軽く舌を出す仕草をするラル。その右手は自分の頭を小突いている。サントは挙動のおかしな魔術士を無視して言葉を続けた。
「あっ、あそこの岩の陰に大ネズミがいますね。どうしますか?」
「えっ……? あっ、あれね。ちなみに好戦的?」
「こちらに気がつけば向かってくると思います」
「了解。じゃあ、はい」
軽く振った杖から小さな光球が飛び出し、岩に当たり弾ける。大ネズミはかぶりを向けると、二人の方へ勢いよく走ってきた。
「えっ?」
「さぁ早く羽剣を構えて。私は姿を消すわ」
サントが振り返ると、そこに居たはずの魔術士の姿が無くなっている。
「えっ……、えぇー!?」
「ほら、来たわよ」
ラルの声は近くから聞こえど、姿は見えない。
「わぁっ!」
草原を駆け抜けて大ネズミが突っ込んできたが、サントは意外なほど余裕を持ってそれを躱した。
「おっ、うまく避けたわね」
「やっ、はっ……」
二度三度と大ネズミは突進を繰り返すが、ヒラリヒラリと少年は避け続ける。
「おぉ、スピードAランクは伊達じゃ無いわね。でも、避けてばかりいないで、早く羽剣を構えて」
「わっ、わかりました!
羽剣の形状が変化し、ほのかに白く光る魔法の刃が現れる。
大ネズミとすれ違いざまに羽剣を振るうサント。
白い光を纏う剣は軽い抵抗のみを残し、ネズミの灰色な胴体を真っ二つに斬り裂いた。
「えっ……?」
大ネズミは断面から血を流すこともなく、暴れまわると、その動きを止め、小さな光の玉を残して霧散した。
恐る恐るサントが近づくと、光は少年の胸元へと吸い込まれ、首からぶら下げた冒険者カードが小気味よい音を立てた。
カードには『サント・ユミック。討伐経験値3ポイント取得。ドロップアイテム・ネズミの尻尾を取得』と表示されていた。
手元に少し長めの尻尾を残し、冒険者カードの表示はすぐに消える。
「ちゃんと討伐出来て、経験値も手に入ったみたいね」
いつの間にか魔術士が姿を表し、少年の後ろから覗き込んでいた。
サントは思わずラルに抱きついて喜ぶ。
「ありがとうございます!! 初めて一人でモンスターを討伐することが出来ました!!」
「………………」
「ラルさん?」
ラルは抱きつかれた格好のまま硬直している。
――尊死。このまま死んでも……、いけない!!
ラルは少年の抱擁からするりと抜け出すと、数歩たたらを踏み距離を取った。
「ふぅ、嬉しすぎて死んじゃうとこだったわ……」
ラルは高鳴る鼓動を納めようと、深呼吸を繰り返してから着衣を整えた。
「さてと、ではここからが本番よ」
アイテムボックスを出現させると、魔術士は怪しく紫色に光る小さめな香炉を取り出した。
サントが目の輝きを増して食い入るように香炉を見つめる。
「これは私が西の海底ダンジョンで見つけたアーティファクト・
香炉に興味津々なサントの姿を見て、ラルは得意気に満面の笑みを浮かべた。
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