第2話③ 羽剣 〜フェザークライド〜

 サントが目を開けると、見慣れた基準点ポータルの石組が眼前に現れた。


 魔石を組み上げた基準点を中心に据えた、三角錐の結界内部。白い部屋の中には出入り口が一つ。


 出入り口を抜ければ、第5階層の草原が広がっているはずだった。


 地下迷宮突入を受けて、二人の冒険者カードからアルカナドローン・熊ん蜂ベア・ビーが放出されて頭上を漂い始める。


「へぇー、こういう感じになっているのね」


 物珍しそうにラルが基準点を調べている。


「ここからは出発地点の主基準点メインポータルと、第4階層のゴール地点に行ける訳ね」


「はい、そうです。ちなみに主基準点へ戻るだけなら、許可証パス無しで通ることができますよ。あくまで緊急避難用の一方通行ですけど」


「なるほどね。ちなみにこれは冒険者ギルドが設置したの?」


「あっ、いいえ。昔、双剣士のパーティが第15階層まで到達した後、王国主体で大規模な調査隊を結成して、各階層の基準点を整備したり、出現する魔物モンスターとドロップするアイテムを調べたりしたそうです」


 サントは背負い袋から短剣を取り出すと腰に差した。


「あぁ、サント君。短剣は必要ないわ。これを使いましょう」


 そう言うとラルは空中に開いた円の中から、ナイフの柄だけのような物を取り出す。


「ラルさん!」


 サントが素早くラルの手を腕をとった。


 ――えぇっ! 二人きりになったからって急に積極的すぎるわ……。


 魔法使いは伏し目がちになり顔を赤らめる。


(主よ、少年が興味を持っているのはそっちらしいぞ)

 ――そっちって……?


 サントの目が興奮してキラキラしている。視線の先にはラルが出現させた中空の円があった。


「それって、もしかしてアイテムボックスですか! 僕も似たようなものを作ろうとして、道具袋に付与魔法をかけているんですけど、中々上手くいかなくて! 詳しく見せてもらってもいいですか?」


 ラルは軽く咳払いをしながら少し距離を取る。


 アイテムボックスは三つ星以上の冒険者に所持が許された、貴重なマジックアイテムだった。


「ふぅ、びっくりした。マジックアイテムには積極的に喰い付くのね。後でゆっくり見せてあげるけど、今はコレね」


 ラルは少年の目の前に柄を見せる。


「これは昔の付与魔法剣士が使っていた羽剣はねけん・フェザークライドよ。羽剣フェザークライド自体が最近では出回らないから、骨董品というか古代遺物アーティファクトに近い扱いかもね。私もお年寄りの元冒険者から譲り受けたのよ。ちょっと握ってみて」


「柄だけだから当たり前ですけど、軽いですね」


 サントは柄だけを振り回してみる。


「じゃあ、その羽剣に武器強化の付与魔法をかけてみて。簡単な+1の魔法でいいわ」


「はい。じゃあ、武器強化+1、付与エンチャント!」


 付与魔法を受けて、柄の先から青白い光の刃が現れる。

 短剣よりも少し長い、長剣と短剣の間ぐらいのサイズの剣となった。


「これは……!? 軽いけど、丁度いい重さとバランスですね」


「これが魔力で出来た剣、魔法剣アルカナソードよ。切れ味は鋼の剣と同じぐらいと聞いているわ。付与する魔法によって様々な硬度や属性の剣が作れるそうよ。例えば燃えさかる炎の剣とかね」


「あっ、柄の部分もさっきと変わっています!」


「生成される刃とバランスが取れるように柄の部分も変化するみたいね。私も見るのは初めてだけど。ちなみに柄のお尻に有るボタンを押すと、魔力が遮断されて刃が消えるはずよ」


 サントが魔法剣を逆手に構えて、柄のボタンを押すと魔力の刃は消え、柄の形状も元通りに戻った。


「これなら僕でも簡単に扱えそうです!」


 少年が目をキラキラさせ、満面の笑みでラル見つめる。


 ――そんなに見つめないで……。恥ずかしいわ。


 デレデレになって締まりの無い顔をするラル。


(主よ、早く話を進めてくれ。日が暮れるぞ)


「そっそうね。これなら非力な付与魔法剣士でも存分に剣を振るうことが出来るわ。早速、フィールドへ出てみましょうか?」


「はい!」


「ちなみにこの階層だとどんな魔物が出てくるの?」


「大ネズミからレアモンスターの鋼一角兎アーリーラビットソンまで10種確認されています」


「りょ~かい。サント君は素早さは足りているけど、力がなくて攻撃が通用しなかったんだよね? だったら回避や防御なんかは問題なしと言うことでいい?」


「あっ、はい。大丈夫です」


「わかったわ。じゃあ新生サント君のデビュー戦と行ってみましょうか!」

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