第36話
ベッドで安静にと言われ続けて5日が経った。
3日目辺りから熱も下がり、体の怠さもなくなっていた。
食欲が戻りつつある私を見て、アランは嬉しそうに笑ってくれた。
その日の昼食を食べ終え、食後の薬を飲んでいると部屋に遠慮がちにノックが響いた。
「アラン、開けてもらっていいかしら?」
「はい」
アランが扉を開けると、そこにはお父様がいらした。
「お父様!」
「リディア、起きていたのか」
私の姿を見てお父様はほっとしたような表情を浮かべた。
「体の具合はどうだい?」
「おかげさまですっかり良くなりました。ご心配をおかけしてしまい申し訳ありません」
ベッドから出ようとすれば、そのままで構わないと止められた。
アランは気を利かせてお父様のために1人掛け用の小型ソファーをベッドの横まで運んでくれた。
お父様はアランにお礼を伝えてから腰かけた。
「体調の悪い中訪ねても無理をさせてしまうだけだと思いタイミングを計っていたが、もう少し早く来ても良かったかもしれないな」
「お気遣い感謝します」
「だが、こうして元気になった姿を見ることができて本当に安心した。…して、原因は分かったのか?アランから容態について聞いたが、相当酷かったらしいではないか」
お父様の心配そうな顔を見て、今憶測として考えていたことを伝えるべきか考えてしまう。
しかし今後のことを考えると伝えるべきであることは明白だった。
腹を括って話すしかない。
「お父様、その件について私の推測ではありますが原因が分かったかもしれません。聞いていただけますか?」
「推測でも構わないからぜひ聞かせてほしい」
どことなく緊張してしまう。
そういえば、お父様に自分のことについて真正面から話すのはほとんど初めてかもしれない。
アランについてのことはあんなにも簡単に出てくるのに情けなくなってくる。
そんな思いを断ち切るように少し深呼吸をする。
その間もお父様は根気よく待ってくださった。
「私が考えるに、この体調不良には魔力が関係していると思われます」
「…というと?」
「私の体調不良は空気が曲がる様な感覚…分かりやすく形容すると、酷い船酔いのような感覚に襲われます。そして意識を失いやすくなるようです。これらのことを総合して考えるに、誰かが魔法を使った時の変則的な魔力の流れに影響を受けて体調を崩したのではないかと考えました」
お父様は私の推測を聞いて少し難しい表情をしている。
「しかしどうして急にそんな体質になったのだ?」
「それはこの1カ月、私がアランに魔力を目視するための訓練をつけてもらっていたからです」
お父様はアランを見るが、見つめられた本人は混乱した様子だ。
「私から申し出たことなので、アランは悪くありません。それにこの体調不良は魔力を視覚的に感知できなくても、触覚的には感知でき始めている兆しではないかと考えます」
「リディアは魔力を感知したいのか?」
お父様の質問に私は強く頷いた。
「魔力を感知することで相手がどんな魔法を使おうとしているのか、さらには警戒しているかどうかも読み解くことができます。これは戦いにおいて非常に重要になってきます」
「確かにそうだが……」
「ですから、私は今後もアランには引き続き訓練の師になってもらえないかと考えています。その際、きっと必ずと言ってもいい程体調不良が付き纏うと思います。この推測をお伝えした理由としては、この訓練についてご理解していただきたいのです」
お願いします、と頭を下げると、頭上からため息が聞こえてきた。
「リディアの言い分はよくわかった。しかし、体調を崩してしまうことを前提に訓練を続けることは看過できない」
「……」
「だが、同時にリディアの覚悟も伝わって来た。よって訓練については様子を見ながら無理のない範囲でなら許そう。それでもいいかい?」
「っ…!はい、もちろんです!ありがとうございます!」
お父様はアランに視線を移す。
「アラン、お前からもリディアのことを頼んだよ。この子はすぐに無茶をするからその時は止めてやってくれ」
「かしこまりました」
余計なことを…、とお父様を恨めしく見るが楽しそうに笑うと頭を撫でてくださった。
「では私は仕事があるから戻るよ」
「わざわざご足労いただきありがとうございました」
お父様を見送ってから息を吐く。
どうやら無意識の内に緊張してしまっていたようだ。
「…あの、お嬢様」
コップに入った水で喉を潤して息をつくと、アランは耳と尻尾を下げて恐る恐る近づいてきた。
「どうかしたの?」
「……2回目の体調不良の原因は私ですよね」
確かに馬車の中でアランが狐耳と尻尾にかけていた目くらましの魔法を解いたときに体調を崩した。
アランのせいではないと言い切れないが、彼が獣人の特性について教えてくれたからこそ魔力が体調不良に関係していると気づくことができたのだ。
どうやら本当に特性は魔力に関係ないようで、女性になったアランが傍にいても体調を崩すことはなかった。
「そんなに悲しそうな顔をしないで。アランが私に特性のことを教えてくれなかったら原因に辿り着くことはできなかったわ。だからあなたのおかげでもあるの」
「しかし、それでは」
「もし罪悪感があるのならば、これからも根気よく訓練をつけてちょうだい?その方が嬉しいわ」
そう言えば、アランは少しだけ微笑んでくれた。
「かしこまりました」
「では明日からよろしくね」
「明日ですか!?」
「だってもう元気だもん」
アランは呆れたように笑った。
「かしこまりました。では明日は念のため室内で行いましょう」
「えぇ、楽しみにしているわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます