第3話
「一目惚れした!?」
「ちょっ、声が大きいわよ」
アランを執事として迎えた次の日、私は通っているアカデミーの親友であるエミリー・フローレンスと昼食を取っていた。
話の流れで昨日の1件を話すと彼女は大きな声で叫んでしまい、慌てて彼女の口を押さえる。
幸いにもこのカフェは奥まった場所にあり、騒いでも周りに迷惑がかからないようになっているため問題ないが、ここは貴族の令嬢が集まる学校なのだからもう少し慎みというものを持ってほしい。
「ごめんなさい、あまりの衝撃で…」
「聞かれていないから今回は気にしなくていいわよ」
エミリーを落ち着けてから再び椅子に座り直す。
「それでどうしてその話を私にしたの?」
「えっと、少し相談に乗ってほしくて」
「リディアが私に相談なんて珍しいこともあるんだね」
そう言って目を輝かせながら身を乗り出してきた彼女に苦笑しながら本題に入ることにした。
「私って王妃候補でしょう?」
「そうだね」
「で、どうせ王妃にならないと思って大人しく従ってきたら他の王妃候補たちが指導の厳しさに耐えきれなくて辞退したのね」
「恐ろしい厳しさだって聞くもんね」
「そこで聞きたいの、私が王妃候補を辞めるためにはどうしたらいいのかしら」
「……んん?」
私の質問に今度は彼女が首を傾げる番だった。
ふわふわと揺れるエミリーの髪が可愛らしい。
そういえば私のもふもふ好きも無意識の内にここから始まったのかもしれない。
「王妃候補って辞められるものなの?」
「普通は辞められないと思うけれど皆が辞退できたのなら私にもできるはず」
「自信だけは褒めたい。ちなみに辞める理由は?」
「アランと婚約したいから」
「…物凄いことを言っている自覚はある?」
エミリーにも引いた目で見られるが、私にとっては大切な問題なのでちゃんと向き合ってほしい。
「それにアランは狐の獣人なの。あのもふもふの尻尾は一度触ったら手放しがたいわ」
「そっちが本命だと聞こえるのは私の勘違いかな?」
「…勘違いよ。で、ここでもう1つの壁は獣人への差別問題よね」
250年前、人間と獣人で大きな戦争が起こった。
その戦争は両国に甚大な被害をもたらし、終戦を迎えるまでに多くの血が流れた。
今ではもう昔のことではあるが、今でも人間は獣人を忌むべき存在だと思っているらしい。
「私は獣人に対して嫌悪はないし、むしろ好印象なのだけれど国が獣人との婚姻を禁止しているのよね」
「昔のことと言えど、国の上層部は軽視できない問題みたいだし」
「そうそう。だからアランと結婚するためには国を出るしかないのよ」
「でもその理由で国外に出るのは難しいんじゃない?」
確かに、王妃候補が国王の許可なしに国境を超えるのは簡単なことではないだろう。
でもそこは何とでもなるはずだ。
話もここから盛り上がるというところでちょうど予鈴が鳴ってしまった。
「あー、次の授業に行こっか」
「次は実技魔法の授業ですので私たちは別室ですね」
「そっか、リディアは植物系の魔法だもんね」
「エミリーは水系でしたっけ?」
「うん!」
エミリーとは次のクラスが違うためカフェで別れ、私は植物の植えられている温室へと向かう。
植物の種に魔力を流して成長させ、花を咲かすのが今日の課題らしい。
用意された中で好きな種を選んで手の平に乗せる。
意識を集中させると種は発芽し、茎が伸びて葉が生える。
「よし、成功」
次に花を咲かせる作業に取り掛かる。
花のつぼみが出来たら、そこにまた魔力を流す。
すると花は開き、その数を増やしていった。
「ウィルソンさん、お見事です」
「ありがとうございます」
機関指導を行っていた先生に褒められてもらえたことに喜んでいれば、周囲の生徒も手元の植物を見て褒めてくれた。
「流石、学年首席は違うわね」
「リディアさんが王妃様になってくださればこの国の未来も安泰ですわ」
「法律学でも優秀な成績を収められているらしいから、個人的には法律改正などにも関わってくださると嬉しいですわ」
聞こえていないと思っているのかべた褒めしてくれるが、そんなに期待されても王妃候補から外れたい身としては複雑だ。
「…あれ、待って。法改正…?」
そうだ。
王妃になれば国政に参加できるし、法改正もできるのではないか?
いやでも王妃になったらアランと結婚できないから本末転倒だ。
「…バツ1でもアラン気にしないかしら」
「ウィルソンさん!魔力を抑えてください!」
「え?」
考えに集中していたせいか、植物の蔓が腕や近くの机に巻き付いていた。
慌てて植物から魔力を吸収して成長を元に戻す。
「大丈夫ですか!?」
「ええ、少し制御に失敗してしまっただけです」
「良かったです。…して、今のは何ですか?」
「成長に使った魔力を吸収して成長を元に戻しました」
「高度な魔法なのに流石ですね。疲れているかもしれませんが、制御に集中しましょうね」
「ご心配おかけして申し訳ありませんでした。ご指導ありがとうございます」
頭を下げてから再び種の方に視線を向ける。
今度はミスをしないように魔力を制限しつつ、脳内で計画を組み立てていくのだった。
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