冷戦(流れ弾で昇天)

「おはよう、愛華ちゃん」

「おはようございます香澄様」


 愛華は香澄にひざまずきそうな勢いで一礼する。香澄はそれにさすがに若干恐怖のようなものを感じて、頭を上げさせた。


「愛華ちゃん、それやめようか。結構怪しいよ。……あと、普通に怖い」

「申し訳ありません」

「敬語もやめようか、不自然だから」


 香澄の言葉を受けて、少し戸惑った様子を見せる。


「えっと、ごめん」

「あ、でも隼人くんには敬語使ってね。距離を縮められたら嫌だから」


 二人のやり取りを遠目に見ていた隼人は、、唐突な香澄の発言に幸福感を漂わせる。隼人の隣に座る恭介は椅子をずらして隼人から離れた。


「わかった。隼人くん、かっこいいから意識してないと寝取っちゃうかも」


 さらっと愛華が言った言葉がお世辞か判断しかねて、隼人は半分だけ嬉しい気分になる。


「隼人くんのかっこよさを知ってるの私だけだと思ってたのに」


 ぼそっと呟いた言葉は隼人に届いたわけではなかったが、香澄の拗ねたような表情に大まかな内容を感じ取って、隼人は少し地面から浮いた(直喩)。


 清原はかっこいいってタイプじゃないと思うけどな、という恭介の発言は、誰の耳にも届かなかった。なぜなら、隼人は都合の悪いことが聞こえないから。

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