春休み直前

 春休みが近づく。


 三年生の先輩たちはいつの間にか卒業していたが、隼人は部活に入っていないし塾とかにも行っていないのでなんの感動もなかった。


 ちょっと思い返せば香澄がなにか言っていたような気もするが、そんなに主張が強いわけではなかったのもあり記憶に残っておらず、気が付けば春といった状態だ。


「じゃあ、今日学校終わったら私はすぐ家族の方に行かなきゃいけないから、申し訳ないけどよろしくね」

「わかった。ゆっくりして来てね」

「うん。学校でも会うんだけどね?」

「ああ、そっか。それならまた後で別れの挨拶しよう」


 香澄は隼人の言葉に頷いて家を出た。


 隼人も、香澄と十分に距離を取ったら家を出ようと用意をする。


 今日で高校一年生も終わるのか、と思うと――三年生が卒業した時くらい無心だ。この一年、香澄と出会う前の記憶がない。


 まあここからが本番か、などと考えながら鞄を背負い、未だ慣れない通学路へ一歩踏み出した。

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