待って、行かないで

「それじゃあ、俺はそろそろ部屋に戻る」

「待って」


 お粥を香澄に渡した隼人が香澄の部屋を去ろうとするが、香澄はそれを引き留めた。


「一人でご飯食べるの、寂しい」

「一人暮らししてたんなら慣れてるんじゃないの?」

「一人暮らししてて寂しかったから清原くんの家に押し掛けたんだよ」


 物は言いようだ。香澄は、どうしても隼人とお粥を食べたいらしかった。


 しかし、隼人は少し迷う。香澄の風邪がもしかしたら感染ってしまうかもしれないし、香澄の部屋のどこで食事をするべきかわからない。


 香澄の部屋にあるのは、ベッド、箪笥、そしてベッドに背を向ける形で設置されている勉強机(分解可能)。勉強机に座ると香澄に背を向けながら食事をすることになってしまう。


「無理にとは、言わないんだけど……駄目?」


 香澄は、もはや恒例となった不安げな表情をした。


 言うまでもなく、隼人は断れなかった。

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