ただいま

「ただいま」


 香澄は律儀にも、誰もいないのにただいまと言いながら玄関に上がった。


「ただいま」


 隼人も、香澄に釣られてただいまと言う。すると、いつもなら寂しく感じていた暗い家が、ただいまと返してくれたような気分になる。


「じゃあ、晩御飯にしようか」

「あー、なんも作ってない……」


 隼人は夕食を食べようと提案するが、香澄に言われてから、隼人は夕食を用意しないで行ったことに気づく。


「今から作る……?」


 だが夕食を作るのにも微妙な時間だ。


「住友さん、冷蔵庫確認しといてくれる?」


 隼人に促されて香澄は冷蔵庫を確認するが……


「今すぐ食べられそうなのはあんまりないね」

「じゃあ断食かな」

「えっ」

「冗談だよ」


 香澄はほっと胸を撫で下ろしたが、夕食が無いという問題はまだ解決していない。


「今から外で食べるのも、ちょっと時間が遅いよね」

「じゃあそのくらい俺が作っとくから、住友さんは休んどいて」


 隼人だって、見栄を張りたいときくらいある。

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