(二十)
「美麗おかえり。美麗が散歩から戻ってくるまで食べるの我慢しようとしてたんだけど、俺も陽菜もどうしても腹が減っちゃって」
そう言って悠稀君はきまりが悪そうに頭を掻く。瞬間、悠稀君は私の手の中で光っている『自分の欠片』を見つめた。
「美麗、それなんだ?」
「綺麗だね〜」
悠稀君も陽菜ちゃんも、これが『自分の欠片』であるとは気がついていないようだ。私は大きく深呼吸し、二人に伝える。
「これはね、私の『自分の欠片』なの」
「「え!?」」
二人とも目を丸くしてこちらを見る。
「美麗、『自分の欠片』見つけたのか?」
「どこにいたの?『自分の欠片』」
二人は矢継ぎ早に質問をする。
「私、昨日アリシス様に私の『自分の欠片』は透明で肉眼では見えないって言われて、すごくショックだったの。だから今日、一人中庭で考えてたの。もしかしたら『自分の欠片』は私の本心なんじゃないかって。そんなの気休めの考えでしかないって思ってた。でもそれは正しかったの。『自分の欠片』は確かに私の本心だった。だから、『自分の欠片』は私の元に来てくれたの。『自分の欠片』は、私次第でどんな色にも形にもなれるって言ってた」
「すごい……すごいよお姉さん!」
「ああ。まさか自分で『自分の欠片』が何なのか分かるなんて……」
「ありがとう。でも、見つけられたのは二人のお陰なんだ。私、学校や家では隠していた本心も、二人の前では沢山出せた。本心でぶつかって、本心で話して、心の底から笑ったり、心の底から絶望してみたり。私の中に、こんなにも沢山の感情があるってことに気が付けたのは、二人がいたからなんだ。だから『自分の欠片』を見つけられた」
そこまで話すと、『自分の欠片』が私の心の中に話しかけてきた。
(僕を取り込んで)
(分かった)
(やり方は簡単だよ。僕を胸に押し当てて。そうすれば僕はすーっと美麗の心の中に戻っていくから)
(うん。やってみる)
(心の中には僕がいるってこと、忘れないでね)
(勿論)
急に黙り込んだ私を、二人はきょとんとした目で見ていた。
「『自分の欠片』は、私の心の中に戻さなきゃいけないの。今その説明を聞いてたんだ。
じゃあ、戻すね」
私は二人にも、『自分の欠片』にも、そして自分自身にも語りかけ、『自分の欠片』を胸に押し当てた。すると、『自分の欠片』は強い光を放った後、そのまま私の中へと入っていった。
何か体に変化があるわけではない。しかし、『自分の欠片』が戻ったことで、少し勇気を貰えたような、そんな気がした。
「これで、美麗は『自分の欠片』を取り戻したことになるんだな。おめでとう!本当にすごいよ。誰にでも出来ることじゃない」
「本当だよ。お姉さん凄い!おめでとう!」
「ありがとう!二人の『自分の欠片』も絶対に見つけようね」
「だな。頑張って探すぞー!とその前に、まずは朝食だ。お腹減ってるからな」
「うんうん。お姉さんもお腹空いたでしょ?ほら席ついて、食べよー!」
「うん」
「じゃあせーの」
「「「いただきます!」」」
三人で一緒に朝食を食べるのは、今日で何回目だろうか。ふとそんなことを考えながら、私は金目鯛の煮付を口に運んだ。
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