みかん 2023/12/29

 俺は今、異世界にいた。

 突然女神により、異世界に転移させられたのだ。

 曰く、チートあげるから世界救ってくれ。

 迷惑どころの話ではない。


 私は忙しいのだ。

 とっとと世界を救って元の世界に帰る。

 そして女神にお灸をすえる。


 ただ問題なのは、もらったチートがミカンがたくさん出せるというものだ。

 特にリスクもなく、無制限で、食べれば完全回復するミカンを出せるようになった。

 だから何なんだ、と思わなくもない。

 なぜそれがミカンでないといけないのかとも。


 だが、ある利用方法を思いついた。

 このアイディアなら、世界を救うのもすぐに終わるだろう。

 しかし、倒すべき悪の存在の場所が分からない。

 見渡す限り地平線だけ。

 目を凝らすと、煙のようなものが見えた。

 人がいるかもしれない。

 とりあえず情報収集といこう。


 しばらく歩いていると、物陰から男が現れた。

「金目のものを出しな。

 そうせうれば命だけ―げええええええ」

 盗賊は悲鳴を上げる。

 よかった、これは効くみたいだ。


 私が盗賊にやったこと。

 それは出したミカンの汁で目つぶしである。

 非人道的だという人もいるかもしれない。

 失明するだろうと。

 だが、このミカンを摂取したものは完全回復するのだ。

 失明してもすぐに回復するから問題ない。

 つまり沁みるだけ。

 優しいね。


「沁みるか?やめてほしければ、言うことを聞け」

「誰がそんなことうわあああ、沁みるううううう。

 すみませんでした。いうこと聞きますぅ」

「いいだろう。では街に案内しろ」

「喜んで!」

 こうして私は下僕を一人手に入れた。

 幸先がいい。


 これなら世界を救うのも早いかもしれない。

 そして女神に目つぶしをくらわす。

 奴は私に許しを請うだろう。

 その時が楽しみだ。


 ビクビクする盗賊を横目に、私はミカンを食べながら高笑いをするのだった。

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