プレゼント 2023/12/23

 僕は門限をあんまり守ったことはない。

 遊んでいると、時間はあっという間に過ぎるから仕方がないんだ。

 いつも怒られるけど、門限が早すぎるのが悪い。

 友達の家は五時なのに、ウチは四時半。

 お母さんにも言った事あるけど、ヨソはヨソ、ウチはウチって言って変えてくれなかった。


 今日も門限を五時半に家に帰ると、お母さんの様子がおかしかった。

 お母さんがリビングで泣いているんだ。

 いつもは怒るのに、なぜ泣いているんだろう。


「お母さん、どうしたの?」

「たっくんが悪い子だから泣いているの」

「門限守らなかっただけじゃん」

「それは悪いことだよ」

 声がしてビックリして振り向くと、知らない男の人が立っていた。


「誰?」

「サンタクロースだよ」

「嘘だ」

 だってサンタクロースは赤い格好をしているけど、男の人は黒い格好している。

 サンタクロースじゃない。


「本当だよ、たくやくん。

 もっとも私は悪い子のところにやってくるサンタクロースだけどね。

 クネヒトって呼んでくれ」

 クネヒトって名乗った男の人は、ボクをじっと睨む。

 コイツは多分悪いやつだ。

 お母さんを守らないと。


「よくもお母さんを泣かしたな」

「それは言いがかりだ。泣かせたのは、たくやくん、君だよ」

 クネヒトは意味不明なことを言う。

「どういう意味?」

 ボクは門限を破ったけど、泣かしてはいない


「私はね、悪い子を連れて行くのが仕事なんだ」

 連れていくって言葉に、ボクはドキッとする。

「君が悪い子だから、お母さんは泣いているんだ」

「ボクは悪い子供じゃない」

「本当に?」

 クネヒトはボクの目を見てくる。

 まるでボクの心の中を読もうとしているみたいだ。


「門限を守らないことは、悪い事だよ。

 そして今日も守らなかった。

 違うかい?」

「それは…」

 ボクは答えに一瞬つまる。


「それは…。門限が早すぎて守れないんだ」

「なるほどね。それは仕方がない」

 クネヒトは納得したようにうなずく。

 大丈夫かもしれない。


「じゃあ、お母さんの方を連れて行こう。悪いのはお母さんだからね」

「それは―」

「クネヒトさん」

 泣いていたお母さんが、僕がしゃべるのを遮る。


「この子を連れて行かないでください。

 私が悪いんです。この子は悪くない」

 ボクはショックを受けた。

 なんでお母さんはそんなことを言うんだ。


「分かった。お母さんの方を連れて―」

「待って」

 ボクは大声を出して、クネヒトを止める。

「悪いのはボクだ。お母さんは悪くない」

「たっくん…」

 お母さんはボクが守る。

「これは困ったな。どうしようか」

 クネヒトは困っているようだ。


「ホーホーホー。あんまり意地悪するもんじゃないぞ、クネヒト」

 声の方を見ると赤い格好をしたおじいさんが立っていた。

「サンタさん!」

 ボクは思わず声を上げる。


「ホーホーホー。

 たくやくん、安心しなさい。

 クネヒトは、君もお母さんも連れて行かないよ」

「本当?」

「ホーホーホー。本当だとも」

 サンタさんは優しく笑っていた。


「ホーホーホー。

 確かに門限を守らないのは悪いことだ。

 でもお母さんを守ろうとするのは、とてもいい事じゃ」

 サンタさんは僕の頭を撫でてくれる。


「ホーホーホー。

 君は本当は優しくていい子だ。

 儂はちゃんと見ておる。

 だが、門限を破るのはいけないな」

「うん」

 ボクは頷く。


「ホーホーホー。

 クネヒトは君を連れていくつもりは最初からないんじゃ。

 たくやくんが、最近悪い子だから注意しに来ただけなのじゃよ」

「そうなの?」

 クネヒトの方を見ると、彼は黙ってうなずいた。


「ホーホーホー。

 じゃあ、明日からちゃんと守るんじゃぞ」

「分かりました」

「もし守らなかったら、私が来て、君を連れて行くからね」

「わ、分かりました」


「ホーホーホー。

 じゃあ儂らは用事が済んだから帰ろうかの」

 そう言って二人は帰ろうとする。

「あ、待って。えっと」

 プレゼントは?って言おうとしたけど、やめた。

 だって、サンタさんの言う通り、最近悪い子だったから。

 もらえるわけがない。


 でもサンタさんは僕の心を読んだように、優しく微笑む。

「ホーホーホー。

 たくやくん、これからお母さんのお手伝いをしなさい。

 そうすれば、今夜プレゼントを持ってきてあげよう」

「分かりました」

 ボクは元気よく答える。

 お母さんの方をみると、ちょっと笑っていた。


「ホーホーホー。

 もうお母さんを困らせては駄目じゃよ」

「はい」

 その答えに、二人のサンタクロースは満足したようにうなずいた。


「ホーホーホー。

 いい子でいるんじゃよ。

 メリー クリスマス!」

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