冬は一緒に 2023/12/18

「冬は一緒にいましょう」

「急に何?」

 妻が唐突によく分からないことを言い出す。

 妻とは半年前に結婚したばかりだが、こんな脈絡も無いことを言うのは初めてだった。


「説明してくれるか」

「はい、結婚してからは私が責任を持って家計を預かってまいりました。

 締めるべきは締め、緩めるべきは緩め、質の高い生活を維持できていると思います」

「ああ、お前が手綱を握ってくれるおかげで、かなり助かってるよ」

 実際俺は金勘定が苦手なので、かなりありがたい。


「それで何かあったのか?」

「はい。これまでは順調に貯蓄もでき、旅行に行くこともできました。

 ですが、ついにヤツがやってきました」

「ヤツ?」

「冬将軍です」

「冬将軍…」

 思わず言葉を繰り返す。


「ヤツがやってきたことで、暖房代で光熱費が高くなる季節が来てしまいました。

 油断すると一気に家計は火の車です」

「なるほど。言いたいことが分かった。節約だな」

「はい。ですが必要以上の節約は厳禁です。

 この寒い中、お金をを惜しんで暖房を使わないというのは文字通り自殺行為。

 そこで暖房は使うが、二人一緒にいる事で効率よく温まり光熱費を節約する、という方針で行きたいと思います」

「そこで冬は一緒に、という話になるのか」

 妻はコクリと頷く。


「分かった。お前がそこまで言うならそうしよう。

 他には何かあるか?」

「特に理由がない限り他の部屋に行かず、極力リビングにいること。

 こうすることで温める部屋が一つになり、節約になります」

「なるほど。だが寝るときは寝室に行かないのか?」

「リビングに布団を敷いて寝ましょう。寝室を使うと余分に暖房代がかかります」

「それもそうだな」

「ありがとうございます」

 俺が納得したことに、妻は満足した様子だ。


「言い忘れていましたが布団は一つです」

「えっ、リビングには2人分敷く広さはあるぞ」

「布団を一緒にする事で、効率よく暖が取れて、しかも幸せになれます。

 節約と私の幸せのため、ご協力お願いします。

 冬の間はずっと一緒ですからね」

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