眠れないほど 2023/12/05

 その夜は全く寝付けなかった。

 もうすぐ初めての子供が生まれるのだ。

 眠れないほど緊張していた。


 このままいても仕方がないので、気分を変えるため、ベットからから抜け出す。

 誰かいるわけでもないが、なんとなく静かに歩いて寝室を出る。


 寝室から出て廊下を歩き台所へ行く。

 真夜中なので、物音は自分の足音だけ。

 草木も眠るとはよく言ったものだ。


 お茶を出そうと、冷蔵庫を開ける。

 思いの外、喉が渇いていたらしく、水がとても美味しい。


 ふと台所の窓から外を見る。

 何も映し出さない、真っ暗な闇。

 このあたりは田舎なので、こんな夜中には車は通ることはない。

 音もせず光もない。

 まるで世界に自分だけのようだ。


 カタと音がしたので後ろを振り向くと、飼い猫のミケがいた。

 物音で起こしたかとも思ったが、よく考えれば夜は彼女らのテリトリーである。

 おそらく夜のパトロールであろう。

 御苦労なことだ。


 しかし、いつもは私を見ると走ってきて遊びを催促するのだが、ミケはじっと私を見ているだけだった。

 よく見ると、なんだか眠そうにも見える。

 昼間寝てないのだろうか?


「眠いのか?」

 そう聞いても、ミケはこちらを見るだけで何も答えない。

 するとミケは私に背を向けて歩き出す。

 数歩歩いて、こちらを見る。

 ついてこいって事だろう。


 ミケの後ろをついて行くが、家の中を歩くばかりで一向に目的地に着かない。

 それにいつもは走っていくのに、歩いているだけだ。


 しばらく歩いて寝室のドアの前に座る。

 開けろってことらしい

 ドアを開けると、スルリと部屋の中に入っていき、妻の寝る場所で横になっていた。


 そこで気づいた。

 ミケは、子供が生まれることを知っているのだ。

 だから子供のように走らず、落ち着きのある大人のように歩いていたのだ。


 私はミケを優しく撫でる

「そっか。お前お姉ちゃんになるもんな。大人っぽかったぞ」

 どうやら緊張しているのは、私だけではないようだ。


「たくさん可愛がろうな」

 そう言うと、ミケは眠そうな顔でニャアと鳴いたのだった

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