竹林 ~竹林庵の物語~

劉白雨

< 序章 >


 美しく穏やかな太平洋と、様々な国籍の船が行き交う東京湾に囲まれた房総半島。この土地は、穏やかな気候と風光明媚な自然に恵まれ、温暖な気候が広がります。 高い山々はここにはなく、代わりに丘陵地帯が広がり、草木が繁茂し、四季折々の美しい花々が咲き誇ります。

 地域の住民たちだけでなく、観光客たちもこの恵まれた自然環境に魅了されるのです。


 魅了されたのは、地元の住民や観光客だけではありません。

 数多くの文豪も魅了され、芥川龍之介氏を始め、太宰治氏、滝沢馬琴氏、三島由紀夫氏、小川未明氏、井上靖氏、そして村上春樹氏に至るまで、錚々そうそうたる文豪がこの房総半島の地を表現豊かに描いてきたのです。

 ここは、海の幸と山の幸に恵まれた、風光明媚な土地であり、いにしえより刻まれた歴史と文化が織りなす、様々な物語が生まれる場所でもあるのです。


 この魅力に満ちた自然の中に、一際大きな竹林が広がる場所があります。この土地特有の穏やかな時の流れと、潮風の香りが交差する場所がこの竹林なのです。

 竹の葉が風に揺れ、やわらかな光がその間から差し込み、竹の茎を彩る緑と、その美しい姿が、時折来訪者の心を打つことでしょう。

 竹林の奥深くに進むと、異なる世界へと足を踏み入れることができるかもしれません。竹の間を抜ければ、自然との調和と平穏なひとときが待っています。


 そんな竹林の奥深くに一軒の庵があります。

 竹でできたこの庵から、朝な夕なに聞こえてくる不思議な調べは、この竹林の神秘さと相まって、人々に神の存在を思わせるような印象を与え、地元の人々からは「神の竹林」と呼ばれ親しまれていました。

 この神の竹林は、房総半島の自然美の象徴であり、その魅力を心ゆくまで感じることができる場所なのです。


 しかしながら、この神秘的な竹林には、夜な夜な微かな歌声が聞こえ、幻想的な光が踊るらしいのです。その歌声はこの世のものとは思えない、神の歌声のようであり、庵から漏れるわずかな光は幻想的にきらめき、まるで歌声にあわせて踊っているかのように見えるのです。

 ただ、噂をする地元の人々もその詳細については誰も知らず、夜訪れても庵に辿り着くことはできず、昼間に訪れると庵はいつも閉ざされたままなので、その真実を知ることは誰にも叶わなかったのです。


 この竹林を訪れて、たまたま庵を見つけた人々は、この竹林の美しさと謎めいた雰囲気の庵に惹かれ、何かを感じるとまことしやかに噂していたのです。

 竹林と庵に関するこのような噂は、地元の住民たちによって、古くから口伝えで語り継がれ、竹林を訪れる人々の心に不思議な興味を抱かせるのでした。

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