第35話 高嗤いする美少女ってなんかいいよね①



 唐突だが高笑いする美少女についてどう思うだろうか。


 俺はもちろん好きだね。

 陰キャ的には恨めしいものだが美少女は何をしても絵になる。どんなありふれた事でも、はたまたどれだけ倫理に触れるような行為だとしてもだ。美少女というだけでプラスの付加価値が付与されるわけだ。


 何それズルい。神様、遺伝子で差を与え過ぎじゃない?神様仕事しろ仕事。


 まぁ何故こんなことを急に言い出したかといえば、


「アハハ!!!! 遂に! 遂に!!!! 手に入れたわ!!!! 力を!!! これでやっと! やっと!!!! アハハハハッ!!!!!」


 彼女アリスが原因である。


『マスターいつまで現実逃避しているんですか』


 あ、はい。止めます。


 魔角猪の死体がキャンプファイヤーの如くゴウゴウと燃え盛る中、ハイになって高笑いする一ノ瀬アリスさま。なんでか高笑いして、弓の曲線のごとく反ってる。どこぞの貴族かな?


 いやぁ、なんでこうなったのやら。そればっかりを考えるが特に何も浮かばない。


 ほんとどうしちゃったんだろね。



 ◆



 ――だいたい一〇分程度前。



「ていうかこのいきなり出現した魔導本らしき物はなんなのさ? 聖剣ちゃんと魔剣ちゃんは知り合いみたいだけど」


『喋る魔導本ですね』


『そんなことも理解できないマスターってほんと無知♡無知♡』


「いやいやいや、説明が雑過ぎじゃない?」


 俺の問いに聖剣ちゃんは雑に返し、魔剣ちゃんはいつも通りに煽り散らかした。

 なんというかもう少しあるだろう。さてはコイツ等まるで説明する気がないな?


『おいおいこの俺様を知らないとかどんだけ田舎もんだよ。王国にその名を轟かせた伝説の魔導本グリモワールとは俺のことさ!』


『いや全然轟いていないですね。むしろマイナーな部類です』


 ずこー。

 これだけ大見得おおみえを切ってマイナーなのかよ。もうなんかいっそ哀れである。


『え、マジで?』


 魔導本も魔導本であまりにも厳しい現実にそれはもう狼狽した。


『マジマジです。まぁ超絶優秀美少女聖剣の私は当然として、まだ魔剣ちゃんのほうが王国民にとって名が知れ渡っていますね』


『ていうか魔導本マドちゃん三〇〇年ぐらい姿すら現さなかったじゃん』


『マジかーちょっと凹むわー。流石に惰眠を貪り過ぎたかねぇ。ほんと凹むわー』


 魔剣ちゃんの発言を信じるならコイツ等は武器なのに言語を扱うことも含めて、つくづく規格外な存在だなと思う。一体全体コイツ等と似たような存在はどれだけいるのだろうか。勘でしかないがまだまだ存在する気がしてならない件について。


「ねぇ」


『お、なんだい嬢ちゃん。この偉大な魔導本様に何か御用かい?』


「一ノ瀬アリスよ。先ほど言っていた面白い素材とはどういうことかしら?」


 アリスは先程の魔導本の発言が気になっている模様。しかしそれは俺も同じところだ。


『あぁん? ははーん、さてはお前等色々と説明するのをサボりやがったな?』


『む、別にサボっていたわけじゃないですよーだ。物事には順序というものがあるだけです』


『別に~魔剣ちゃんはそもそもそういう担当じゃないし~』


 あ、コイツ等まだ俺達に説明していない要素があるな。いい加減にせえよと問い詰めたいところだが、まずはアリスのほうだ。


『よし相分かった! アリス嬢、俺様を手に取りな』


「?」


『言葉より実践ってな。とにかく悪いようにはしねぇから言われたとおりにしてくんな。あぁ利き手とは逆にしておいた方がいいぞ』


「分かったわ。これでいいかしら?」


 言われるがままにアリスは魔導本を左手で取った。その姿は中々に様になっているもので、一流の魔術士と言われても信じてしまいそうなほどだった。美少女補正マジずるい。


『よし。ちょうどアリス嬢から見て右後方の木陰から魔獣がこっちを伺っているから、そのまま魔術を放ってみな』


「ブモッ!?」


 まさか気づかれると思っていなかった魔獣は盛大に悲鳴を上げた。コイツ等の気配察知能力は一体全体どうなっているんだか。俺なんか欠片も気がつかなかったぞ。


「本当にいるじゃん……」


 思わず言葉が零れた。

 確かに魔導本が言う指定地点には確かに魔角猪ホーンボアが存在していた。

 先程から偶然というにはちと出来過ぎな気がしなくもないが。

 まぁ大量繁殖していると依頼書には書いてあったし、わりとこの辺りには沢山生息しているということだろう。


「分かった。やってみるわ」


 アリスは魔導本を左手に持ち、右手を魔角猪に突き出した。


「……」


 俺はアリスに気づかれないように問題児聖剣ちゃんを睨みつけた。

 それに気がついた聖剣ちゃんは肩をすくめる表現をするかのように空中で数回上下した。今回は妨害するつもりはないらしい。


 まぁ二度とあんなことをやらせるつもりもないが。

 そんなやるせないやりとりをしているうちに事態は進行していく。アリスに狙いを定めた魔角猪は今に突撃しようと右前足で地面をかき鳴らしていた。


「ブルルルルルッ!!」


『ぶちかましな』


「ええ。下級炎魔術フレイ!」


 ゴウッッッッッ


 先程と同様の魔術とはまるで比べ物にならない。

 彼女の掌に収束するように集まった炎は人頭程度の大きさではない。なんと魔角猪を覆い尽くすことすら可能な程巨大に形成されたのだ。


 そのまま炎魔術は勢い良く直線に放たれ、魔角猪を丸ごと飲み込んだ。


「プギイイイイ!!!?」


 この絶大とも言える一撃に耐えられるわけもない。

 炎魔術に包まれた魔角猪は盛大に悲鳴を上げて絶命した。


「……まじか」


 そして俺は目の前の光景に呆然とするばかりである。


「一ノ瀬……?」


 どうにもアリスの様子がおかしい。今度は魔角猪を無傷で葬ったはずの彼女は何故か俯いて沈黙してしまっていた。


 そして気がついた。

 彼女の肩は少しだけ小刻みに震えていたのだ。まぁ現代の日本社会で生きていれば生き物を直接殺すことなどほとんどない。ましてやアリスのような女の子であれば尚更だ。


「ふふっ」


 えっ。


「ふふっ……あはは……!!」


「あ、あの? い、一ノ瀬さん?」


 あれ、おかしいな?

 初めての殺生で震えていると思ったら何故か笑っている件について。


 え、マジでどゆこと?


 しかし困惑する俺などお構いなしに彼女の嗤い声はどんどんと大きくなっていく。


「アハハ!!!! 遂に! 遂に!!!! 手に入れたわ!!!! 力を!!! これでやっと! やっと!!!! アハハハハッ!!!!!」


 彼女の唐突な嗤いを目の当たりにした俺はただただ呆然とするばかりである。


 本当に一体全体どうしちゃったんだろうね。









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