EX1 第二王女モルガン
ーー勇者召喚初日深夜
「モルガン様にご報告が」
まだ汚れがほとんど見当たらない鎧に包まれた兵士が第二王女モルガンの執務室の扉を叩いた。その手は震えており鎧が新品に見えることからも新兵であること伺えた。
「入りなさい」
もう深夜だというのに、モルガンは宰相と机を囲んでいた。机にはチェス盤が一つ。しかし盤の上に並べられた駒は様々な種類が存在し、実際のチェスのものとは異なる様相をしていた。聖剣を持つ勇者から龍を模したものまで様々だ。……明らかに幼女を模したものは見なかったことにする。
「それで? 現在筆頭勇者様は何をなされておるのかしら?」
「……てます」
「はい?」
「はっきり申し上げて爆睡しています」
新兵の報告を聞き、モルガンのにこやかとした表情が崩れた。
「ヒョヒョヒョ。王女様の美貌に見向きもしないとはこれまた驚きましたなぁ」
王女の様子を見てか宰相が大変愉快そうに嗤った。
新兵はその行為に肝を冷やしたが王女はため息を一つ返すだけに留めた。
「陰キャっていうんでしたっけ? 異世界で彼のように見た目が冴えない人間をそう呼ぶそうですが中々に厄介ですね」
王女達にとって予想外だったのは筆頭勇者が全くもって此方になびく様子がなかったことだ。いくらアプローチをかけても頬を染めることすらない。部屋に誘うなどという淑女あるまじき行為をしても来る気配すら見せない。この上なく意味不明だった。
「そもそも彼のような存在がまさか聖剣の使い手に選定されるなんて……神造兵器も耄碌したものですね」
「王女……その発言はお控え下さい。聖教に敵意ありと見なされかねません」
新兵は王国に所属する兵士の極めて普遍的な倫理観に基づき進言した。特段可笑しい部分などなかったはずだ。しかしそれが不味かった。
「――は?」
瞬間、空間の時が凍った。
「貴方、今この私に口答えしましたか? 下っ端も下っ端。たかが一兵士でしかない貴方が???」
「いえ決してそのようなこと……は!?」
次の瞬間、新兵がふわりと宙に浮かんだ。
「がっ……う、く、苦しい……!」
そして不可視の腕により首が握りしめられた。
新兵は必死に首に手を回すが締め付けは強くなる一方だった。
「ヒョヒョヒョ王女様まぁよいではないですか。主導権はどうあってもこちらにありますぞ」
「ふぅ……いけませんね。ここ最近思い通りに進まないことが多くて些かストレスが溜まっていたようです」
宰相の言葉により王女は冷静さを取り戻したのか、不可視の腕は跡形もなく消え去った。そして新兵は塵屑のように地面に叩き捨てられた。
「た、助かった……」
王女はつい寸前まで殺しかけたはずの新兵に見向きもしない。その視線はこの部屋の中にいる誰にも向けられていなかった。
「まぁいいでしょう。先に他の勇者様達の育成を進めることにしましょうか。幸い彼らはそれなりに粒揃いのようです。特に天上院天下でしたっけ? 彼には成長率に大きな補正があるみたいですし鍛えればそこそこ使えそうです」
まぁいい時間は腐るほどあるのだ。王女はそう考えることにした。筆頭勇者が何を考えどう足掻いたところで彼は元の世界に戻る術を持たない。それならやりようはいくらでもあるというものだ。
「ふふっ逃げれませんよ。なにせこの世界の全ては私の掌の上なのですから」
王女モルガンの脳裏には件の男──明星影人の顔が浮かんでいたのだった
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