第8話 銀行(国庫)強盗の勧め
『マスターさんマスターさん、先立つもの何よりもお金ですよお金。まねーいずぱわーです。どうせなら国庫からいくらか……いえむしろ全部拝借していきましょうっ!』
場所代わり再び自室。
逃亡を決意した矢先、この国の象徴でもある聖剣様はそんなことをおほざきになられた。
「お前ほんとに聖剣か?」
『必要悪というヤツですよ必要悪。これでマスターがもし野垂れ死んでしまえばそれはもう大変なことです。それに経済だって回りますし良いことずくめです』
もはや言っていることが詐欺師の領域だ。やっぱりこいつは可及的速やかに捨てたほうがよさそうな気もする。
「というか聖剣ちゃん的に国庫襲撃はもちろん国外逃亡もいいの?」
『おやマスターは勇者をやる気になった感じですか?』
「いやそれは依然として御免だけど」
『うーむ変わらずの塩対応。ま、気楽に行きましょう気楽に。さぁレッツ銀行強盗やらです!』
うーむ聖剣的にまじでそれでいいのか。ていうか銀行じゃないし。
◆
『というわけでここが隠し金庫なわけです』
「いやなんでそんな場所を知っているんですかね……」
聖剣ちゃんの案内に従い難なく国庫内部に侵入出来た。この国の警備大丈夫か?
『ま、
それもそうか。彼、いや口調や声的には彼女のほうが適正か。とにかく彼女はたかが人間とは違い武器だ。それも伝説級の存在という。
きっと人とは比べられないほどの寿命を持っているのだろう。
ん? 待てよ。ということはこいつ何歳ーー
『マ・ス・ター? それ以上はぶっ飛ばしますよ?』
すんげー威圧を向けられたのでこの話はここでやめておく。どの世界でも女性(?)に年齢の話は厳禁らしい。くわばらくわばら。
「さ、さて。さくっと回収しちゃいますかね」
国庫の中には金銀宝石または豪華装飾を施された武器や装備など様々なものが溢れていた。
うーん、そういえばこの世界の通貨とかよく分からんな。
ま、いいか。手当たり次第、金貨っぽいのをポケットに詰め込んでいくか。
しかしそんな俺の行動を見てか聖剣ちゃんは芝居がかった溜息を吐いた。なんだこの野郎。
『チッチッチッ、マスターは甘いですね。蜂蜜をデロデロにかけた砂糖菓子のように甘いです!』
それは確かに甘いな。
ただでさえ甘ったるい砂糖菓子に蜂蜜を大量にぶちまけるなど神をも恐れぬ所業。恐ろしい。恐ろしすぎて夜中の三時ぐらいに食え。
『な、な、なんと~~~! 聖剣にはアイテムボックス機能がついています!!!!!』
な、なんだってーーーーー!!!!!
『勇者特典です。しかも無限に収納可能かつ時間停止機能付き!』
な、なんだってーーーーーーーーーー!!!!
なにそれもはやチートじゃん。
ちなみに聖剣ちゃん曰く、ここは王族や貴族が私腹をブクブクと肥やして作られた隠し国庫らしいので国の財政にも影響はないらしい。
なら聖剣ちゃんの言う通り国庫から根こそぎ奪い取れるというものだ。なんかあいつらムカつくし。どうせ市民かい上げて還元もする気もないんでしょう?
『――』
「ん?」
『? どうしましたマスター?』
「いや、なんか声が聞こえたような……」
突然、何か奥のほうから声のようなものが聞こえた気がした。空耳か?
『―― ―― ――』
いや違う。
これは空耳なんかじゃあない。確信。性格上あまりこういうものは信じない
「これは封印か……?」
奥の方を見渡すと何やら無駄に厳かな雰囲気を纏う扉が存在した。両開きの扉でその中心には古びた札のようなものが貼ってある。
不思議な感覚だ。何故か吸い込まれるように自分の足が進んでいく。
ガコン
目の前まで来ると、その扉は俺の手が触れる前にひとりでに開いた。
『うへー何ですかこのあからさまな演出は。罠ですよ罠。見なかったことにしましょう……ってマスター?』
聖剣ちゃんが何か言っている気もするがまるで耳に入ってこない。
若干の危機感を覚えつつも、それでも依然として俺の足は勝手に扉の中へと進んでいく。
「これは……」
扉の中は驚くほど何もなく、その中心には台座がポツリと一つだけ。そしてその台座には漆黒色の大剣が突き刺さっていた。
え、またこのパターン?
とんでもなくデジャブ的なサムシングを感じる。そうなるとこの後の展開は言わずとも読めてしまうわけでして。
『あれあれ~? そこの雑魚雑魚っぽいお兄さんもしかしてアタシと相性良い感じぃ~?』
しかもというか……やっぱりお前も喋るんかい! しかもこの感じメスガキかよっ!!
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