闇に紛れる微光のフィクショナル

立花戦

第1話―見舞われる災厄―

差別は潰えない。

その切っ掛けの入口は何時いつだって理由は無い。

端緒は決まって理不尽で瑣末的さまつてきだ。

そして俺の場合は外見から始まる。


「ここ河川敷は夕方になれば人が少ない。

部外者は駆けつけることもなーい!」


そう、理由もなく殴られては蹴られていた。


「気に食わねェ。

まるでき目に遭っていますって、そんな顔をしやがってよォ!」


「まだ頭をうなだれるのは早えぜぇ。オラァ!」


進化する文化や倫理。

いくら排除して改めて向上しても無くならい。

潜在的に根付いてある拘束のようにある考え。

ましてその潜在的に眠る淘汰には克服できない。

いくら発展しても社会があるかぎりは。

どのような時代でも外見至上主義ルッキズムから解決の糸口は見つからないのが証左しょうさとなっているであるから。

人が人を搾取さくしゅするのは世の常。


「スッキリした。いこうぜ」


――奴らが離れ去るまでどれだけ経ったか。


「ゴホッ、ゴホッ……くそォ。

派手はでに殴りやがって。

俺が太っているからか?ブサイクだからか!?」


西に傾いていた陽を……見上げる。

すっかり地平線に沈んでいる。

恨み言をつぶやきながら。

付着している汚れを払い落として落ちているカバンを拾う。

放課後になれば痛めつけられて財布の中身を盗まれるのは日常。

いつもの帰り道だった。

イジめる連中に呼び出されて足を運んだ河川敷でサンドバッグに扱われた。


挙句あげくには財布の紙をぜんぶ抜きやがって。

そんなに困っているならバイトでもしろよ!」


このような理由くだらない経緯けいいで。

気が失うまで殴打されたら悪態や呪いの言葉だって一つ二つはしたくなる。


「見た目が気持ち悪いだけでここまでするか」


その精神性までいくと怒りや呆れを湧くよりも哀れみさえ憶えてくる。


「ここまでいくと俺よりもクズじゃん」


汚れた制服をカンタンに洗濯とか考え、家に帰ろうとカバンを肩にかけて歩く。


「災難だな今日も。

アイツらマジで陰湿なことばかりしやかって、誰かに刺されて地獄におちていけ!」


そこに居ない相手に。

汚らしい言葉で罵って叫ぶ。

もう人気ひとけのない河川敷の夜は誰も聞こえないからこそ。存分に鬱憤を聞かれないことに好き放題に吐き出せた。

それでも。

この痛みや屈辱は晴れず。

粘り気めいた溜飲が下がることは無い。

つい夜空を仰ぎたい気分に駆られて呆然と眺める。


微光びこうさえ……見えないか」


こんな暗闇にも照せない中を自分がいる世界のように重ねる。

重なって見えてならないまま希望は無いのかと失望に浸かる。


「ハァー。目が覚めれば夜になっているし帰っても誰も怒られないだろうけど……あっ」


しまった。

誰もいないから汚らしく俺は悪罵あくばを撒き散らかして気づけなかった。

身の丈ほど伸びる茂みから人が現れた。

なんでそんな所を通って来たのか?

うーん、よく分からない。

夜の時間帯ではこんな奴もいるかと無理矢理それ以上を深く考えることを放棄して去ろう。


(それにロープを目深にかぶって顔も見えない。

全身で隠しているし明らかに怪しすぎるだろ。

なにか犯罪に手を染めたとかなら……。

目を合わせない方がいいだろうし)


物騒なので近寄らないようにしよう。

ここは触らぬ神に祟りなしで見なかったことに。


「ハッハハハ。間抜けにも来た、来たァーーッ。

ノコノコと間抜けにも一人ィィでェェッ!

アッハハ。ここで獲物を値踏みしていた退屈な時間は無駄にならず。

はは、その格好は異能者。これはプレゼントだ」


だが此方が関わらないようにしても、彼処あちらは違うようで懐から銀色がひらめく。

どんな形状がまでは視認できないまま。

異物が俺の身体に押し付けられた。


「服装を破られた!?

ぐっ、神経と血流から異質が流れ込んでくる」


「あっはは。いい変貌ぶりだ」


ズルズルと体内へと半分ほど入り込んでいく。

こんなことするために誰かが通るのを茂みの中で待っていた。


「あっはは、ヒャッハハハハハ!

苦しめ、もっと苦しめ。

それが異能者に奪われてきた苦しみの一部だ」


激痛が走る。

胸を抑えながら、こんな理不尽な目に遭ってしまう元凶の男に怒りで頭がどうにかなりそうだ。

睨んでいるとロープの奥から目を剥き出す狂気に満ち満ちた目でどこか走っていた。


「俺ここで死ぬのかよ……」


痛みが過ぎると次には異様な熱さが全身に広がってゆく。

ナイフに刺される痛みが走る。

柄でも触れようとするが空振りする。

いや刺されてなんかいない。


「ない?……もしかして痛みの原因はナイフじゃなくて別の」


視認するのは死をより直結につながる。

重症をこの目から伝わり頭で理解するのは怖い。

おそるおそる刺突された方へ見下ろしたら。


「カラフルな石……これって宝石?」


痛くて熱くて仕方ない。

ここまで痛覚を起きているのは考えるまでもなく正体は鮮やかな色の石。

なにかの鉱石かと触れてみるが心地よい感触。

材質は全く分からない。


「深くまで入り込んでしまっているか……。

あのロープはこれで何がしたかったんだ。

取りはずしは並み大抵の事では……はずせないか」


これが何かは知らないが確認するのは後回しだ。

今はとりあえず最寄りの病院で診てもらおう。


「とんだ厄日やくびだ。

これを取り外したら帰宅する。

そしてエロゲでもして嫌な気持ちを吹き飛ばすとするか。

んっ?ドブのような臭いがする。

それに……枝を折りながら近づいてくる」


また飛び込んでくるのか。

特定や通報されにくい時間帯を選んで狙い、無差別に襲われたことからロープの男の関係者が向かってくる。

狩人の生活を肉食獣よろしく刃物と狂気に戦う。

いやいた牙に立ち向かうには武器もなければ度胸さえも俺にはない。

醜く逃げるか。

脳裏によぎるが俺は足音や茂みの奥からは警戒と好奇心を感知する。


「まるで、これだと俺は人間じゃないみたいと告げられた気分だ……」


そうこうしていると茂みの中から影が飛び込む。


「ニャー」


それは小さな姿で。

鳴き声から視線を下げると迫ってきた不審人物ではなく猫であった。


「ハァー、驚かすなよなあ。

で、どうしたんだよ。こんなところに来て?

迷ったのか」


「ニャン」


かがんで猫の背中を手の甲でやさしく動作はゆっくりと撫でる。

いきなり撫でるのは猫にしたら恐怖だ。

先ずはこちらが安心だと寄り添うのに手を広げて撫で回すのではなく手の甲は効果的。


「怖くないぞ、よーし、よし。良い子だ」


人のように気管が無いので複雑な声を発することがない。

多くの動物は声音でどういった感情か少ない判断材料で判断する。

そのため優しく声も親しみの効果がある。

これでも猫の態度や気分次第には逃げることもあるがここまでポイントをつかんでいると非常に愛嬌のある声で懐いてくれる。


「ニャーン」


ああ、一時ひとときの安らぎ。

なんて愛嬌の塊である猫に心から癒されて辛い現実を忘れる時間。

一瞬だけの神の気まぐれだった。

見てしまったのだ。

あまり深く考えようとしなかったツケなのか。

撫でていた手の爪が異様なスピードで伸びてきた。


「なんだよ……なんだよ……なんだよ」


「にゃ?」


ここは猫も人間とも共通なのか訝しげな出来事には首を傾げる。

悪魔のような鋭い爪。

そして変没は加速的に進んでいき俺の手は大きくふくらんでいく。

血管が浮かび。

肌の色は暗みのある緑色へと変化した。

あまりにも最悪なことに眼前にいるのが……ご馳走に見えてしまい――


「うっ……ど、どこかに行けよ。

さっさと行かないと……これで……これが切り裂いてやるぞ!」


「にゃ、にゃァァ!?」


いきおいよく立ち上がる。

高い声で怒鳴るだけで迷い猫は萎縮して敵視。

とくに聴覚が人よりも高いためよりうるさく聞こえるのだろう。

急変したことに悲鳴を上げて猫は離れていく。

これでいい、これで。

姿が捉えなくなるまで見た俺はそのあとバケモノへと変わろうとする自分の腕。


「振り返ってみればクソのような人生だった。

愛も向けられず、持つこともないまま。

閉ざそうとしているのか。

来世は……イケメンになりたい……ナァ」


最後となる言葉は誰も聞くことなく。

風に吹かれて、かき消すようだった。

生まれつきこのみにくい容貌から度々バケモノ罵声を浴びてきた。

正真正銘のバケモノに変貌していくとは。

俺がなにをしたんだ。

こんな終わりかったなんて……望んでいない。


「ぐォォォォォォォーーッ!!」


壊す。壊す、壊す!

おたけびを咆哮ほうこうするだけで土ごと草を吹き飛ばして木をなぎ倒していく。


「ごオォォォォーー」


これが俺なのか。

冷静な意識はあるもののどうしようもない破壊だけの衝動に支配される。


「あァァァァーー!」


抑えられない。

ひどく飢えや力が足りずに飢餓が襲っていき食材である生物をらわないと野垂れ死ぬ。


「びゃあァァァァーー!」


屍を重ねるよりも餓死を選ぶ。

無駄だ。

理性ではそうであっても溢れんばかりの悪欲には逆らえない。

辺りを見渡しても生物がいない。


「スィタァァァーーッ!」


それのみならず俺は俺じゃない。

意識だけを残して激しく渦巻いて止まない感情のみで動くだけの醜く唾棄するべきのバケモノだ。

もう殺してくれえ。はやく!

その願いが届いたのか。

真っ暗な小夜さやを切り裂いていくような光の流星が落ちてくる。

大きな爆発はなかったが落下した場所には地面は、くぼんでいた。

その中央に人影が立っていた。


「こんな河川敷で古代種がいるなんて」


「ぐおォォォ!」


かすかな香水の匂いがする。

ケモノのようになった嗅覚からコイツは女だと判断すると性欲が抑えられず俺は走り出した。

恥ずかしくないのか。

人としての尊厳やら価値を失うことになるのは自分であることを自覚しても怪物の獣欲にブレーキが効かない。

そして光の流星となって落ちてきたクレーターに迫りながら砂煙などが徐々に晴れていく。

火口のようになる中央には女性のシルエット。

そして姿が見えるようになっていき……晴れていき視界に捉えたのは人間離れした女神だった。

人類からスバ抜けて美しい女の子。

もし意識があれば息を呑んでいたかもしれないほど彼女はあまりにも美貌だった。

こんなノンピリと観察している場合ではないと知りながらも思考をストップさせるだけの立ち姿。


「しゃィィィィーー!」


「やっぱり古代種こだいしゅだったか。

せない。

どうやって結界を抜け出せて暴れているのか。

これもイレギュラーと片付けれないけど。今は真相どうか思考する必要している場合じゃないか」


とても理知的な女性だ。

あと見覚えのあるような、でも思い出せない。

雪さえも欺く様な白い肌。

夜の闇であっても陽光のように輝いていた黒い髪。

それともっとも惹き付けるのは瞳だ。

とても美してくて引き寄せられて何時間も目を奪われてしまう。

なのに、表面からも奥に滲み出る裏からでも悲しみを抱えているようだった。


「おォォ!」


爪で横なぎ払う。

名前も知らない美少女は。

軽く後ろへと跳んで回避行動をとる。

危うく玉兎のような肌を血で汚すところだった。

ギリギリなタイミングで避けた彼女からは焦りや間一髪のようなものはなく。

むしろ完全に読んでいた。


「カバンや千切られた制服の跡か。

これだと喰われたと推測するだろうけど血が一滴もなく肉塊さえもない。

あの古代種は破れた制服の一部を張り付いているのは……ならやるか」


巡らした策がひらめいたのか。

俺はコントロールも出来ない。

膨れ上がる巨腕を斜線を描くようにして叩き潰さんと振り下ろすが。


「ふむ」


これを難なくと先程みたいに後ろに離れ過ぎずかわした軍師的な美少女。

なんということか大胆だ。

美少女は私服のロングスカートを思い切って破ってみせたのだ。


「よし。これで駄目なら倒すか」


意味がわからない。

もはや意識とは別に行動。

感情だけの乖離かいりした俺の体はまったく気にすることも無く弱らせてから陵辱りょうじょくせんと狂気をみなぎっていく。

なんの工夫もなく腕をとにかく振り回して暴れる。


「ざァァァァーー」


「意味をなさない言葉に意味は……あるのかな。

ねぇそこのキミ、もしかして人間じゃない?」


攻撃の手数を単に増やしただけでは通用せず。

すべてを涼しい顔で回避。回避して、回避を。

そんなことよりも……

分かるのか。

人間らしさが皆無になってしまっても。

こんなバケモノになったと自己分析したのか。

もう終わっているバケモノと遂げた場面を見ても。


「ぐおォォォォォォーーー!!」


「このとどろき上げるシャウト……

どうも好戦的なものではない。

私の感がそうなのか的中しているか。

なら、今すぐ楽にしてあげるから」


頼もしい美少女が淡々とそう言うと視界から完全に消えた。

それだけではなく視界が黒の闇に包まれる。

否、背後に回られて破ったスカートで視界をおおわせて視界を奪ったのだ。


「ウゥッ、ガァ、ガァ」


不安なのか。

そうなると近寄らせないと必死になってあらぬ方向であろうと腕を振るってジタバタするだけ。


「姉さーーん!どうしたのですか急に走り出して……こ、古代種!?

どうしてこんな杵築市きつきしの河川敷に!?」


まるでピアノを奏でるような音色のような美声。

声からして男性で、歳が近いだろうか。

縦横無尽に動いていた美少女の連れだろうか。


「堤防に待っていてと言ったはずなのだけど」


「言いつけを破ったこと謝罪します。

ですが眉根を寄せては慌てている姿。

見ればただ事ではないと察します。

これでもフィクショナルでは階級をいずれは持つだけの実力はあるつもりです」


彼がいうフィクショナルとは異能のことを指す。


「言いつけなんて。

はぁー、もう襲ってくるとは思わないけど不要に近づかないように。

あと無茶だけはしないように」


「そこまで小言をいわなくとも承知していますよ」


「動かないで言って守ってくれない」


「そ、それはだからですね」


なんだろうか。

狂気に駆られるバケモノが河川敷に偶然と駆けつけ倒そうとしているのに。

二人の緊迫感のない会話が繰り広げられている。

俺はそんな悠長していいのかとツッコミしたくてたまらなかった。

こんな茶番を戦闘を前にしたてきは黙ってそのやり取りを最後まで見届けてやる義務はあるはずもなく。


「グゥィィィィーー!」


視界を遮らえても嗅覚が敏感な動物はちょっとした臭いでも特定は難しくは無い。

頭か少し回れるだけの冷静になり微量のにおいで嗅ぎ取れる。

そのうえ聴力が音で場所をつかむ。

それを頼りに正確な居場所を目掛ける。


「うるさい奴だ。

あの古代種が大分県にいるかは後々に知れるとしても誰かが滅ぼさないとならない。

とはいえ、こんな雑兵に完封するのは自分でもやれます。姉さんは下がって見守ってください。

ハァッ!」


するとゴロゴロ空気を裂くような轟音。

これは雷鳴か。


「待って」


「いえ行きます姉さん。

うなり上げよ【雷轟雷撃らいごうでんげき】」


ゴオォーンと。耳にもろうする響き。

地面を震撼させる。


「やめなさい脩造しゅうぞう

よく聞くように、古代種は学生である貴方が倒すことは諸問題が生じる。

……私をあまり迷惑をかけさせないで」


「っ――!?

ですが………そんな事態でなっておいて罰なんてあるのですか!?」


「いうことを聞いて」


「くっ。はい、姉さん」


突き放すような強い口調。

すさまじい雷撃を解き放とうとしたが中断。

美少年のフィクショナルが解除する。


「もう残されている時間がない。

ここから手痛い処置をする。覚悟して耐えて」


そう宣言した刹那だった。


「姉さんは古代種には言語を通じないのに?

何故そのような無駄を……」


華奢な手が身体の中央に触れてきた。

これに反撃しようとするが獲物には当たらず手応えがなくて回避したと分かる。


「取った。これで」


避けられたことに対して苛立ちが積まる、その瞬間だった。

魂が抜けるような脱力感が全身に駆け巡ってくる。

どうやら胸部にある怪しい宝石を取ってくれた。

同時になかなか抑えられなかったマイナス感情までも霧散していく。


「姉さんこれって?」


「私が手に持っているのは作為的に古代種とさせる結晶のようね。

これを取り込れたのが原因で暴れていた」


「なんだって!?

もしかして……誰かがそれを。

ならこれを日本で流通していた。大分県で?

気軽に手に入られるのですか」


「いえそれはない。

少なくとも調査が厳しく敷いている状況でそう簡単には渡れないはずだけど」


胸中に埋め込まれた宝石が取り除いた。

体を蝕んでいた宝石を。

彼女は取り外したことで支配していた不快な干渉が離れていくのが分かる。


「おオォォーー!うァァァァぁぁぁぁーーっ!!」


そうかこれでバケモノは無力化。

したことになると受け取っていいのだろうか。

まだ人語を発せないながらも頭を抱えて断末魔のように咆哮を続ける。


「戻っていくだと。人間になった!?」


「どうやら私の直感は当たったようね」


それが既知であってもこの目でみれば信じられないという美少年。

その声に反比例するように無感動な美少女。


「ぜぇ、はぁ……」


なんて消耗している。

バケモノになった反動なのか凄まじい疲労感。

骨が軋まれる音が鳴る。動かす度に痛めが襲う。

どうにも脚はなかなか力が入らず地面の上に座るしかなかった。


「大丈夫?今はずして上げるから」


透き通るような声。

覆われていた切れ布をはずされて視界の風景が飛び込んだ。

すぐに不快そうな顔をして見ていた美少年。

やっぱり飛び抜けた容姿を持ち合わせていた。

そして俺の視界に入れるよう緩やかに回ってきたのは助けてくれた美少女。


「あ、ありがとう……ございます」


「大したことでは無い。

すぐ病院を呼ぶから待っていて」


「あっ、はい。…………あれ、もしかしてフィクショナルの到達点に至れた愛宕美桜あたごみお


「…………人違い」


目を逸らした。

否定はしているが嘘をついている反応を示すよくやるパターンを踏んでいる。

もはや疑いようもなく何故だか名前を隠そうとする美少女こと愛宕美桜が俺の目の前に立っている。


「チッ、面倒なことになった」


舌打ちをしながらも絵になる少年。

あれ?もしかして弟なのかコイツは。たしか姉さん、姉さんと呼んでいたけど確認したいところだけど残念なことに俺はコミュ障。

なによりも弟が怖い。


(こんなとこほに愛宕美桜がいる?

いや幻じゃあないか!?)


異能とも扱われるフィクショナルに関しては同年代では脅威の最年少で階級を修得した鬼才。


「ここまで立ち回りしていたら人が駆けつける。

ここは私だけで大丈夫」


「そうは行きません!

姉さんだけ置いていくなんて」


政府公認の新たなる軍事兵器を秘められた異能者をフォーマル・ヴィザード。

愛宕美桜はフォーマル・ウィザードという大人だらけの社会に飛び込んで瞬く間に功績を上げてきた。

その活躍ぶりは世界でも知られており日本の救世主とまで謳われるほどだ。


「とはいえ都合のいい夢を見ている」


「うん、夢を見ている?」


キョトンとする愛宕美桜は恐ろしい美貌を持つ。

これも彼女のフィクショナルによる効力と公表されている。俺の妄想にしてはなかなかの再現度だ。

それに救出しようと破ったスカートの丈は太腿ふとももを半分までしか残っていない。

それに加えて俺は座り込んでいるため立って話をこうとする彼女のスカートから伸びる美脚。


「へっへへ、いい眺め。

最高の有名人がこんなあらわになっていての下の位置。

エロォォーー!」


歓喜していると腕を組んで様子を見ていた少年が薄気味悪いものを見るような目を向けてくるが気にしない。

コイツの妄想を割るのは無駄。


「この男……まさかッ!

助けられた分際で、よこしまな目で見上げているというのか。

このクズ野郎が!恥を知れぇぇーーッ!!」


怒り心頭といった感じで紺色のサラサラヘアの少年は俺に向かって走り出した。

それから横腹に拳を叩き込んできたのだった。


「ごフッ!」


ヤバいこれは。意識が遠のいていく……。

これが夢とは思えない痛覚だし意識が朦朧もうろうとしてきた。

このままだと夢が終わりそうだ。

地面に倒れた俺は激痛に耐えられず、のたうち回るのだった。


「どうして暴力を出した脩造しゅうぞう


「い、いえ……話を聞いてください姉さん。

あの者はイヤらしい目を向けていていたのです。

えーと、そのですね」


声が遠くなってくる。

この夢は長く続きそうにはなさそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る