哀愁漂う、君の横顔。
フミアキ
プロローグ
村の木々に止まったひぐらしが、カナカナと鳴いている。
夕日を直視し、
「はぁ、はぁ……」
痛む腹を抑え、ありったけの力を振り絞り、柚木は後ろを振り返る。
柚木の背後に立つ人物は、先程柚木の腹部に刺さった、血にまみれたナイフを手に握り、かすかに
「っ……なんで…———…」
その人物は
意識が
振りかざされるナイフが、柚木の左胸に突き刺そうとしている。
あぁ、うち、このまま死ぬんやろうか。
柚木は抵抗できなかった。いや、抵抗しなかった。
柚木は力が特段弱い
汗ばむ日差し、痛む片腹、親愛なるあなた。
今までの楽しい思い出が柚木の脳裏をよぎる。
情に厚い柚木は、今、自分の人生に幕を下ろそうとしている人物でさえ、傷つけることは出来なかった。
柚木の左胸に、ナイフが突き刺さる。
指紋でロックを解除し、メールアプリを開く。
震える指で、キーボードを操作する。
打ち終わった柚木は、一気に力が抜け、スマホを握る手がゆっくりと開く。
2018/9/6 18:43
宛先:親愛なるあなたへ
Cc:
Bcc:
差出人:
件名:あなたは、あなただけは
私の人生を奪ったこと、絶対に赦さない
女子高生殺人事件について
第一発見者
「仕事から帰る途中で、車に乗っとったんです。そしたら柚木ちゃんが倒れとって…ほんま、ビックリしました。すっごい無惨な姿で…人生これからやって言うのに…ほんま、お気の毒やわぁ…
え? 柚木ちゃん? 殺されるような子やなかったですよ…あたしらみたいな初老にも親切にしてくれるし。評判、よかったんですよ。…まぁでも、あの神堂家やしねぇ…
とにかく、このあたりでは評判めちゃくちゃ良かったですよ。」
神堂柚木の同級生
「割と、校内では人気な方やったと思います。綺麗な顔しとったし。けど、それに善がらず誰にでも平等に接してましたよ。めちゃくちゃ優しいって訳でもないんですけど、どこか魅力があったんです。多分、カリスマ性なんやと思います。みんな、彼女達について行きました。特に誰かと関係が悪いとかは…聞いたことないですね。殺されるほど強い恨みを買うようなことも、自分が見とった範囲ではなかったと思います。少なくとも、校内では。早く、犯人見付かって欲しいです。」
神堂柚木の幼なじみ
「柚木とは、生まれた時から一緒やったんです。母親同士が高校の同級生で、生まれの病院も一緒で。柚木は……ほんま、ええ子でした。笑顔がほんま愛くるしくて。そんなずっとニコニコしとる方でもなかったけど。しょうもない冗談にも付き合ってくれるし、いっつも一緒おってくれるし……あ…すいません…思い出したら涙出てきてもうた……とにかく、恨みをかうような子ではなかったと思うなぁ…」
(取材:N新聞・
二千十三年、九月二十日。
二週間前に起きた、女子高生殺人事件の犯人が自殺した。
自身の胸に、ナイフを突き立て、ベッドに横たわっているところを旅行帰りの両親が発見した。
ナイフから犯人以外の指紋が出なかったため、警察は自殺と断定した。
「殺人を犯すのに、なにか理由が必要なのだろうか。
強いて言うなら、柚木が好きだから。だから、悪く思わないで。」
これは、女子高校生殺人事件の犯人が自殺前に残した、遺書だった。
この遺書は、パソコンに残されていた。
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