第3話
事件は最初の自動アップデートの時に起きた。ゆかりさんは完全に機能を停止した。検索をかけたが、同じ事例はなかった。
メーカーの対応は迅速だった。この初期不良が起きる確率は0.1^24、ビッグバンが起こる確率と同じらしい。再発防止の改善も既に完了しているそうだ。
「ブランドイメージを守るため、新品との交換を推奨します。ユーザー様のご希望に沿うのならば…呼称は『ゆかりさん』のままですが、外見は全て変更になります。修理は受けられませんので、その代替案として…我が社の技術者になってもらう道があります。この『ゆかりさん』に限り、我が社の設備を用いてユーザー様自身の手で修理できます。故障の責任は負いません。」
ゆかりさんの為に、技術訓練校に入校した。ハード・ソフトどちらの訓練も受けた。訓練の日々は、まるで機械になったようだった。食欲も睡眠欲もなくなり、食べ物の味もわからなくなった。起きているのか寝ているのか、ゆかりさんがいないのが現実なのか悪夢なのか、わからなくなっていった。今まで楽しめていたものが楽しめなくなり、生きている実感がなくなった。ゆかりさんが約束の証と、悪戯に小指に火傷を作った。その傷痕の痛みだけが、人である証のようだった。
『ゆかりさん』を起こしたら、いつも通り眠そうだった。止まっていた時計が、動き出したような気がした。
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