第12話

と思っていたのだがそうではないらしい。

「な、何言ってるのよ……」

何故か動揺する彼女に私は首を傾げた。

それからしばらく何か言いづらそうにしていた彼女だったが何かを決心したのか小声で呟いた。

「あの、おトイレに行きたいだけよ……」

「え……?」

(あぁ……そう来たか、なるほど……)

私の予想の斜め上をいく回答に私は半ば呆れつつ納得してしまったのだ。

(年頃の男性が我慢するというのは中々珍しいことだと思いましたが、これなら理解できますね)

あとは理由がわかったので何とかできそうだと考えて対処することにした。

(やれやれ……すぐ戻りますからね……)

私が手伝うにしても他人の手の温もりや振動、音が伝わるとかいう前に我慢できなくなってしまったかもしれませんしね……

扉を開けてもらうよりも、扉を開けるまで無理そうなので鍋などの重そうなもので物理的に開ける方がよいと考えられるだろう。

(他によさそうなところは……)

周囲を見回したのだが他に人がおらず仕方なくやるしかないようだ。

(では、行きます!)

私は鍋や調理道具などが置かれている棚の上に乗り上げ、そこから一気に飛び降りたのだ!

「ぐふっ」

着地に失敗して足を打撲しましたが何とか目的を果たすことができました。

(ふぅ……なんとかなったか)

私は嘆息すると部屋の方を確認した。どうやら間に合ったのかカイル君は部屋から顔を出した。

「タクミありがとう……すまなかったな」

恥ずかしそうに俯く彼の頬は何故か赤く染まっていたのだが私にはその理由がわからなかった。

(熱でもあるのだろうか?後でステータス確認をしてみるか)

ステータスを見たことで熱の理由が分かったのはその日の夕方になってからだったのだが、私はこの光景にロゼさんと顔を見合わせて、苦笑せざるを得ないのだった。

後日 タクミ 4日間様子を見ていたがステータスに変化はなし。

(おかしいですね……?)

ロゼさんに確認を取った後すぐにカイル君に確認したところ本人も何もしていないというのでスキルがレベル2になったことを踏まえてもまだ効果時間があると思われる。

私が森から戻ってくるとロゼさんが嬉しそうに声をかけてきた。

「お帰りなさいませ」

微笑んでいる彼女を前に、私の胸は大きく高鳴っていた。

その理由は前を進んでいるカイル君と会話をしている内にようやく分かってきたのである。

(やはりそういうことでしたか……)

不思議と気分が高まりカイル君に声をかけられただけで胸が高鳴っているのだ。

(この気持ちがそうなんでしょうかね……?)

あまり恋愛に傾倒するようなことがない私にとっては未知なる感情であり、どう扱っていいかわからないというのが本音であった。

私が考え込んでいるとカイル君が少し心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「どうかしたのか?」

そんなにまじまじと見つめられてしまわないように私は首を振った。

(この気持ちは今は胸にしまっておきましょう……)

そう思ったのだ。

今はまだこの気持ちが何なのかはっきりしていないのだ。

もしかしたらこれから変わっていくかもしれないのだ。

「いえ、何でもありませんのでお気にせず」

私は何事もなかったかの様に振舞うことにしたのだった。

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