二 忠告
夏の夕暮れの土曜。俺はジーパンにトレーナーで、乾隆亭へ行った。知り合いが何人かいて、俺が白いロングのワンピースに白いミュールの女と会うのを意外な眼差しで見ていた。しかも女は上背があって派手な目鼻立ちをしている横村美枝だ。乾隆亭へのどこからも横村美枝は目立っていた。
翌日、日曜の午前中、古田和志が訪ねてきた。
「横村美枝つきあうんか?もしそうなら、やめておけ。あいつと寝た男は数え切れねえぞ」
「和志。お前もか?」
「ああ、そうだ。つきあうつもりで会った途端に、ラブホに誘われた。後はおきまりコースさ。こんな出会いもあるんだなと思っていたら、野崎忠則が
『横村だけはやめておけ』
と言ってきた。忠則も、俺と同じような出会いをしてたと言った」
「いったい横村は、何人を相手にしてきたんだ?」
「俺が知ってるだけで、チームの全員を相手してた」
俺と古田和志と三沢忠則も同じサッカーチームだ。
「全員と寝てたのか?」
「亮もそうなら、全員だ。他にも寝た男は何人も居るはずだ」
「横村は、なんでそんなに相手を変えたんだ?」
「あいつにとって、寝るのは、欧米のドラマような挨拶程度なんだろう。そうしないと身が持たない性格なんだろうな」
「淫乱か?」
「そうじゃないみたいだ。倫理観の相違だ。相性のいい相手を探してるんかも知れん。身体と性格両面のだ」
「そうなるとモラルや良心、正義感の欠如か?」
「そんなのは、どうでもいい。昨日は見合いだったんだろう?」
「わかったか?」
「あの雰囲気は誰が見たって見合いだ。横村とつきあう気か?」
「いや、叔父に勧められて、会っただけだ」
「それなら、口実を作って断われ。二桁の数の男と寝た女を女房にする気は無いだろう?」
「無い」
「叔父に事実を話してやれ」
「横村が困るだろう?」
「お前、横村とつきあう気か?」
「そうじゃない。横村個人の問題を叔父に話す気はない」
「言い訳するな。お前、律儀だから、横村の事を考えて、事実を話す気は無いだろうが、横村も承知で男と寝てるんだ。叔父に話すんだ」
「嫌だ。人のプライバシーを告げ口するような真似はしたくない」
「何を綺麗事を言ってる?横村とつきあって結婚する気か?」
「その気は無い」
「それなら、何と言って断わるんだ?昨夜の横村は、お前にべた惚れだぞ。あんな横村、見たことない。早く断わらないと引っ込みがつかなくなるぞ!」
「ああ、わかってる」
「お前、横村に惚れたな?」
「そんなんじゃない。見合いを断わる理由を考えてるだけだ」
「俺は、忠告したぞ。あとは自己責任だ」
そう言うと古田和志はソファーから立ちあがって部屋から出ていった。
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