第6話

「分かっているんです。ピノが私の事を想って姿を消してしまったということは。ですが、最後までずっと一緒にいてくれたピノと別れるのが、とても辛くて。できることならばこの星空も、ピノと一緒に見たかった」


 独り言のように、星空を見上げたままはなはそう言った。だけどそれは僕に向けられた言葉。


「僕もだよ。僕もね、できればメルロと一緒にこの星空を見たかった。あっ、メルロっていうのは」

「知っています。ピノの恋人、ですよね。そして、あなたの中に存在していた別人格。ピノから話は聞いていました。あなたはすぐる、ですよね。初めまして」


 星空から目を僕へと向けると、華はふわりと笑う。


「うん、初めまして、華さん」

「華、でいいです。ピノがずっとあなたの事『優』って呼んでいたから、ピノと話す時は私もあなたのこと『優』って呼んでいましたし」

「いいなぁ。メルロはピノのことも華のことも全然話してくれなかった。他のことは色々話してくれたのに」

「女の子同志は恋バナが好きなので。メルロはきっと照れ屋さんだったんですね」


 ふふふっ、と華は笑って続けた。


「きっと私たちは、とても良い人格に守られ続けたのですね。優のメルロも私のピノも。そしてメルロもピノも、最後まで私たちの事を想ってくれていた。いつかまた、二人に会えるでしょうか。今度は別の人格ではなく、別の人間として」

「そうなるといいね。うん、そうなって欲しい。二人とも星になるんじゃなくて、別の人間に生まれ変わって欲しい。そうしたらきっと僕たちはすぐに見つけられると思うから」

「そうですね。もし出会えたら今度は4人で一緒に、この星空を見たいです」


 二人で星空を見上げた瞬間、細い筋を描いて一つの星が流れ落ちた。

 とっさに僕は祈った。

 メルロとピノにまた会えますようにと。今度は別の人間として。


「ピノは絶対になれるって言っていたのですけれど……」


 星灯りの元でも分かるほどに頬を薄っすらと染めて、華が言う。


「優と私も、メルロとピノのように、恋人になれるでしょうか?」


『ねぇ、ピノがいなくなったら、優が華の事支えてくれる?』


 僕の頭の中に、ピノの言葉が響く。

 僕はピノと約束したんだ。華を支えると。

 でも、ピノと約束したから、という理由だけではなくて……


 そっと華の手を探り、冷えた華の手の上に手を重ねて、僕は答えた。


「うん。大切にするよ、華のこと」


 きっと華と僕も、ゆくゆくはピノとメルロみたいな関係になっていくのだろう。

 そして、メルロの言ったとおりになるのだ。

 ここは、生涯忘れられない、大切な場所になる。

 だってここは、メルロの想いもピノの想いも残されているし、何より華と僕が出会った場所なのだから。


「よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げる華を促し、二人で一緒に星空を見上げる。

 メルロが僕を守り続けてくれたように、ピノが華に寄り添い続けたように、僕は僕のやり方で華を支えていきたい。

 聖夜に光り輝く星々に、僕はそう誓った。


【終】

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