第5話

 フラリ、とよろけるように倒れ込むピノの体をとっさに受け止めて、僕は芝生の上に横たえた。

 頭だけは、僕の腿の上に乗せるようにして。

 閉じたままの瞼の端から、涙が幾筋も流れ落ちた。

 きっと、はなもピノとの別れが悲しくて仕方が無いのだろうと思う。僕だってメルロとの別れは悲しくて仕方が無かった。だから気持ちはよく分かる。

 流れ出る涙をハンカチで拭っていると、やがて瞼がゆっくりと持ち上がり、濡れた目が僕を見上げた。


「ピノが、いなくなってしまいました」


 言いながらゆっくりと起き上がり、彼女-華は膝を抱えてうずくまる。


「ピノ……ピノ、なんで……」


 胸が締め付けられるような華の呟きは、メルロが姿を消してしまった時の僕の呟きと全く同じ。

 でも、今なら分かる。

 ピノは本当に華の事が好きだから、華の事を想って自ら姿を消したんだと。

 メルロが僕にしてくれたように。


「華……さん、見て。ピノがくれたクリスマスプレゼント」


 ようやく華が顔を上げて僕を見る。

 そして、僕が指をさした方向-空へと目を向け。


「綺麗……」


 小さく呟いた声は涙声。


「ピノが言ってたんだ。君が目を覚ましたら一緒に星空を眺めてあげてって。綺麗な星空、見たかったんでしょ?」

「でも、ピノが」

「僕も同じなんだ。メルロからおんなじプレゼントを貰ったんだよ、去年。だから……すごく綺麗だけど、悲しいよね、この星空」

「……はい」


 空を見上げる華の頬に、再び涙が伝う。

 僕は華の隣に腰を下ろし、その涙をハンカチでそっと拭った。

 華はされるがままにただじっと、星空を見続けていた。

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