第3話

「ほんとはね、知ってたんだ。ピノもいずれはメルロみたいにならなくちゃダメだって言われてたし、去年のクリスマスイブにメルロとはバイバイしたから。でも、その時メルロが『1年後にここに来い』って言ったから、もしかしたらまたメルロに会えるかなって思ったんだけどな……。お兄さん、すぐるだよね?メルロがよく話してくれた。優はすごく優しくていい奴なんだって。ほんと、すごく優しいね。ピノもそう思った」


 グスグスと鼻を鳴らしながら、ピノは言った。

 やはり、僕の考えは当たっていたようだった。


はなもね、すごくいい子だよ。華やかっていう漢字の華にしては割と地味だけど。大人しいし。だけど、ものすごくいい子なの、優しくて。メルロにもよく話してたんだ、華のこと。そしたらメルロね、華を優に会わせてやりたいって。もしかして優、今日は華に会いに来たの?でもごめんね、まだピノがいるから華には会えないよ」


 僕にとってのメルロ。

 華っていう人にとってのピノ。

 同じだ。

 僕は解離性同一性障害の治療を受けている。

 解離性同一性障害の人間の肉体の中には、複数の人格が存在する。

 僕の中にも最初は何人か居たけれど、最後まで僕と一緒にいてくれたのは、メルロだった。

 僕とメルロは意思疎通ができたし、住み分けもできていた。

 僕が昼間、メルロが夜。

 だから僕はずっと、星を見る事ができなかったんだ。

 夜は、僕の体はメルロが使っていたから。

 多分、ピノも同じなんだと思う。

 昼間は華。夜はピノ。

 そしてこの場所でメルロとピノは出会って、二人で一緒に星空を見上げていたんだろう。


「僕は、華……さんのことはメルロから何にも聞いて無くて。だけどメルロが消えてしまう前に『星の綺麗に見える場所がある。来年のクリスマスイブに、そこに行くといい。優にとって生涯忘れられない、大切な場所になるはずだ』って言ったから、だから今日ここへ来たんだ」

「そっか……そっか……」


 小さく呟いたピノの声は、また涙声になっていた。

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