第14話 呪詛

 ハルカ、ソラミ、そして俺もヒミコにならい、手袋を外して指輪を差し出す。

 ただ俺だけは左手の手袋も外し、腕時計をかざすよう指摘されたのでそうした。


「聖域に眠り、霊力を宿し神器達よ。今、再び集いし我らが魂、それぞれの形代かたしろにその霊力を移し給え!」


 ヒミコの言葉は現代のものとはかなり異なるものだった。しかし、その意味合いは俺にもそのように感じ取れるものだった。


 そしてその祈りが終わった時に、各々の指輪、俺の腕時計が光を放った。


 刹那、俺の体内にとてつもないエネルギーと、えも言われぬ懐かしい感情が流れ込んでくるのが感じられた。


 とはいえ、それらはすべて気のせいかもしれない。傾きかけた日の光が指輪や腕時計の光沢に反射しただけかもしれない。

 その後、すぐにヒミコから放たれた


「無事儀式は終わった。とりあえず、今日は家に帰ってゆっくり休もうぞ」


という言葉に、安心したのだった。


 そこからの下りは、獣道程度の幅だがここまでとは比べ物にならないぐらい歩きやすかった。おそらくここを参拝する人が使っている小道なのだろう。最初から分かっていたならば上りの時から利用できていた。


 このまま無事下山できるだろう……そう考えていた時にその異変は起きた。

 すでに彼女たちの言う聖域は抜けていたようで、先ほどまでの清々しい雰囲気は消えていたのだが、急に身の毛のよだつような禍々しい気配、激しい悪寒を感じた。


 上空には百をこえるであろう多数のカラスがうごめくように飛翔しており、騒がしい鳴き声を重ねている。


「ふん、邪鬼王の下っ端、その呪詛がこの時代まで生き残っておったか? あるいは引き継がれておったか。いずれにせよ、我々が神器を取得したことが露見したようじゃの。まあ、それは時間の問題であった。先に神器を取得した我々の勝ちじゃ」


 ヒミコは不適に笑みを浮かべると、天空にその指輪を突き上げた。

 するとわずか数秒で周囲が暗くなり始めた。

 まだ日の入りまでには大分時間がある……そのことに困惑した俺だったが、上空を騒がしく飛んでいたカラスたちも戸惑っているようだった。


 太陽を見ると、黒い。

 ふちだけが明るく輝いている。テレビでしか見たことがない、皆既日食のようであった。


 ただ、その範囲は限定的で我々の周囲200メートル 程度のように思われた。

 それでも自分にとっては驚愕だ。今までは単なる気のせい、あるいは、何かの見間違えのように思っていたのものが、今度は明らかな超常現象として発現したからだ。


「まだ転魂したてでこの体に慣れておらぬ、本来の2割ほども力が出せぬの」

 ヒミコがそう嘆くが、十分に驚異的だ。


 ただ、日食のような状態になったからと言って、それでどうということはない。

 その後がさらに目を見張る光景だった。


闇払一煌やみはらいしいちのきらめき!」


 ヒミコが軽く右手を払うと光が拡散するように放出され、大量のカラスたちを捉える。

 ギャーと悲鳴のような鳴き声を上げ、一部のカラスは早々に逃げ去り、さらに一部のカラスは地面に落ちた。


「邪鬼王の転魂や肉体の復活とは無関係なのでしょうか」

「そう思いたいがな、あまりにも弱すぎた。いや、まだ終わってはおらんようじゃぞ」


 既日食のような状態が続き、我々の周囲だけ薄暗い山中、辺りの様子ははっきりとは見えない。


 しかし、茂みの奥から何やらうなり声が聞こえてくるのがわかる。


「今度の奴らは先ほどよりは思念が幾分強そうじゃぞ」


 藪の中からはこちらを伺う複数の野犬の視線が見えた。

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