第12話 剣山の山頂
剣山に向かう道中は、天気が良く楽しいものだった。
運転するのは陽菜さん、助手席には空良。
そして、後部座席に俺と日向子が並んで座っている。
空良は自分は酔いやすいからとわざわざ助手席を選んでくれた……俺と日向子に気を使ってくれているようだ。
剣山に向かう道中は楽しいものだった。
軽自動車なので空間は狭いのだが、その分、日向子は俺に体をくっつけてきてくれる。
前日、俺と彼女の両親が話ししたことを聞いていたようで、俺としては相当恥ずかしかったのだが、日向子は喜んでくれているようで、それだけで幸せな気分になれた。
まだ彼女の本当の気持ちを100% 聞けているわけではないのだが、俺が彼女に恋心を抱いているのは伝わっているのだろうと思ってしまう。
本気で告白する機会があれば本当に付き合ってもらえるのではないか? そんな期待が頭をよぎる。
しかし、全ては今のこの問題が終わってからだ。
彼女は時折不安そうな表情を浮かべる。やはり別人格が自分に住み着いているということを非常に気にしているのだ。
麓付近までは二車線の広い道路が続いていたが、次第に道幅は細くなり、くねくねとした上り坂、対向車とすれ違う際に苦労する場面もあった。
しかし、それは三姉妹キャーキャー言いながらも離合をなんとかこなしていた。
再出発してから二時間ほどでリフト乗り場に到着。一人乗りリフトで十五分かけて頂上近くまで到達し、ここからは徒歩だったのだが、みんな入院していたとは思えないほど元気で、普段からたまに散歩で裏山に登っているだけのことはあるな、と思った。
この間、別の人格が出てくることは皆無。ひょっとしたら、もはや全ての危惧は杞憂だったのかもしれないと思った。
歩くこと1時間。既に標高は二千メートル 近くまで来ており、真夏だが長袖が必要な気温だ。ただ、晴天なので日差しは強い。そんな不思議な感覚に戸惑いながら、和気あいあいと山頂を目指した。
最後の山小屋を越えて、階段を上り切るといきなり視界が開けた。
天気は快晴、眼下に雄大な景色が広がる。隣峰の
三人ともその景色に見入っているようだった。
「ふむ、まさか、かように容易にに辿り着けるとはな」
日向子が発したその一言に、鳥肌が立った。
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