第7話 恋心

 三姉妹は、念のため一日だけ入院するが、外傷は全くないため、翌日の早朝には退院できる見込みだという。


 彼女たちの両親が付き添うことになったが、その二人に、大事な話があると行って連れ出された。


 休憩スペースで三人だけになったところで、日向子の話を出された。

 どうか彼女のことを嫌いにならないで欲しい、と。

 さっきも同じような話をしたので、全く問題ないと答えたのだが、


「では、日向子と結婚を考えてくれるか」


 と聞かれた。

 相変わらず、「許嫁」にこだわっているようで、逆に俺のどこが良いのか聞いてみたのだが、同じ日、同じ病院で生まれたということもあって、運命だと考えているのだという。


 だが、今回はそれだけではない。

 いわゆる「多重人格」は、結構重大な症例だ。目の当たりにして、ショックも大きかっただろう。


 三人とも、誰とも結婚できないかもしれない……そんなふうに思ってしまったのだという。

 どう返事をしようかと思ったが、


「日向子がそれを望んでくれるなら、俺は断らない」

 と、思っていることを正直に答えた。

 さすがに自分でも顔が熱くなるのがわかったが、二人とも心からほっとした様子だった。


 まあ……田舎のイベントとはいえ、優勝するほどの美少女で、しかも俺は「許嫁」を公言し、そして「彼氏役」を演じている。

 その理由は、そうしないと日向子がモテすぎるからだ。


 容姿が整っているだけでなく、成績も優秀で、運動神経も良い。

 明るく、快活で、良く笑い、表情豊かだ。

 男女問わず優しく接して、人当たりも良い。

 人の悪口を言っているところを聞いたこともない。

 そんな日向子が、モテないわけがない。


 だが、それで彼女が言い寄られて困ることも多々あった。

 なので、俺が恋人役になっている。 

 実家もすぐ近所なので、登下校も一緒、わざわざ手を繋ぐこともあった。


 実際は、互いに親友のようになってしまっていて、それ以上の進展には至っていないのだが……それを知っているのは、俺の他には三姉妹だけだ。


 日向子の姉、妹とも、「じれったい」とか、「もどかしい」とか冷やかしてくるが……これ以上、どう恋愛に発展させれば良いか、分からなくなってしまっているところはある。


 日向子は、本当は友情しか感じておらず、俺に恋心なんか抱いていないのではないのだろうか……そんな不安もあった。


 そして今回の出来事が起きてしまった。

 卑弥呼イベントは一種のお祭りであり、これが終わったら、本音を確かめてみたい……密かにそう考えていた。


 なぜならば、翌日が俺たちにとって共通の記念日……十八歳の誕生日だったからだ。 

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