疾風怒濤の冒険譚 〜魔法戦士までの長い道のり〜

よりー

第1話 魔法戦士になってみたい

 俺の朝は遅い。日が完全に昇りきった頃に目を覚ます。屋根裏部屋なのを忘れていつも梁に頭をぶつける。寝ぼけ眼のまま鏡に向き合い、癖毛と奮闘する。一向に治る気配がない癖毛とは長い付き合いになる。見すぼらしくもなく立派でもない無難な服を着て外に出る。朝食はいつも近所にあるパン屋で買って済ませている。世間はもう昼なので太陽が眩しい。家に戻っても一人暮らしなので黙々とパンを頬張る。食べ終わるとまた外に出てふらふらと街をさまよう。何度警邏に取り締られたか分からない。余計なお世話だ。

 確かに俺は無職だ。高等学校を卒業したは良いものの、どの職業も俺の目には理想的には見えない。教師は精神的にダメージを負いそうだ。馬鹿な生徒にものを教えるのは大変である。俺も常に教師を困らせていた。軍隊は訓練が厳しそうなので却下。土方仕事は世間からの評価が辛いだろう。

 しかし!俺が考える最大の欠点はこれらのような甘ったるいことではない。他の職業も含めて、揃いも揃って、給料が安いのである。収入が多かったらこの程度のこと、耐え抜くことはできる。だが、安月給では俺は生きていけない。親からの仕送りは毎月減っていっている。初めは銀貨50枚で、1日3食食べてもお釣りが来ていたが、今では銀貨30枚である。仕方がないので昼食を抜いている。親からは毎月仕送りと共に、


「早く就職しなさい」

「結婚できるのか?」

「早く孫の顔が見たい」


 などと添えられている。手紙を読むといつもイライラする。しかし、親の懐に余裕がないのも事実である。実家があるノルトラント州は今年不作だと聞く。流石に親に死なれては心が痛むので、今日も今日とて掲示板にある求人広告を見に行く。大抵は怪しい盗賊稼業のような広告ばかりだが、今日は国が出している広告だった。よく読むと、国家資格と書いてある。魔法戦士募集の資格で、どうやら受験料を取られそうなので、肩を落としかける。しかし、驚愕の文言が目に入る。


「一月あたり……?金貨30枚ぃぃぃ?!」


 俺は仰天する。


「おかあさーん、あの人こわーい」

「しっ、あんなの見ちゃだめよ」


 周りの冷たい視線をものともせず、俺はその場で跳び上がった。魔法戦士という職業があるのは知っていたが、実態がどのようなものかは知らなかった。しかし、こんなに給料が高いとは。金貨1枚が銀貨100枚なので、今の100倍良い生活ができるようになるらしい。しかも、座学ではなく実技試験ときた。これなら大した勉強をせずとも合格できるだろう。試験会場はアンザス帝国立魔法学院帝都キャンパス。試験日は帝国暦512年8月30日。今日は8月27日だから、準備期間は約2日。




 何かおかしいことに、俺は気づいていなかった。魔法戦士なんて、そう簡単になれるわけがないのに、俺は舞い上がっていた。

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