咲花先生はちっちゃいけど大きい

みちづきシモン

第1話「(プロローグ)入学式と紹介」

 冬から春になり四月、桜の舞い散る道から進んだ先にある中学校。小学生から中学生になった生徒たちがやってくる正道せいどう市立中学校。

 新任の先生の中には明らかに身長が低い人がいる。小学生低学年くらいの身長しかない先生は、周りの先生と挨拶していた。

 咲花さきばなかおる先生、二十四歳独身。身だしなみを整えるのがあまり得意ではなく、髪の毛は乱れていて大きなアホ毛が目立つ。国語教師として生徒たちを見ることになる。国語教師になるのが夢だった彼女。身体能力が高く体育教師の方が向いているんじゃないかと言われるが頑として曲げなかった。

 体の小さな咲花先生が運動神経抜群なのは……というよりは背が伸びなかった先生が運動神経抜群なのは、彼女なりの努力あってのことだった。夢叶って教壇に立つ咲花先生の想いとは裏腹に中学生になったばかりの彼らは、手が付けられない程自由奔放で教えるのに苦戦する。


 成長したと言ってもまだまだ子供の彼らの面倒を見る先生は、皆の事を大好きだった。だからこそ正しい道に行かせてあげたいと思っていたし、間違った道に彼らが進んでしまったら正してあげたいと思っていた。

 そして小学生から上がってきた彼らはきっと恋愛もしていくだろう。傷つく事もあるはず。そういったことをサポートしていけたらいいと先生は思っていた。先生自身の恋愛経験はあまりないわけだけど。

 咲花先生には大きな過去があり、それが背がちっちゃい理由でもある。でも先生は努力をして強い体を手に入れることに成功した。強い心を手にした。それを皆にも教えてあげたいと思っていたのだ。


 新入生として正道中学校に入学した子達の中でも咲花先生と大きく関わる生徒たちがいる。

 大鷹おおたか優斗ゆうとはこの中学三年間を華やかなモノにしてみせると思っていた。彼は小学生の頃、親友と呼べる者がいなかった。親友という存在に憧れを持っていた優斗は早く入学式が終わって新しいクラスに行きたいと思っていた。

 天谷あまたに賢也けんやは欠伸をしながら入学式に参加していた。本当ならサボって特訓したいところだったのだが、親にちゃんと学校で過ごすように言われている。そういうところは真面目だが基本的に不良生徒のような振る舞いをする彼は、格闘家になる夢のために早く学校の時間が終わって欲しいと思っていた。

 神谷かみや巫女みこは恋愛脳で、白馬の王子様が来てくれるはずという少女漫画脳だった。友達は少ないが嫌われているとかではなく、その美麗びれいさが人を寄せつけなかった。才色兼備の彼女が誰を王子様と決めるか、男たちは密かに狙っていた。

 美井びい美世みよはギャル風の女の子で髪も金髪に染めている。不良のようで実は真面目な彼女は、見た目の通りに勉強ができなかった。ふざけているようでちゃんと真剣なところもある彼女がこれからどうなっていくかを見守る人もいる。

 河合かわい千代ちよは美世の幼なじみ。運動神経が良く、走ることが好きなので陸上部に入りたいと思っている彼女。文武両道でありたいと願っているが脳筋のため勉強が不得意である。なんとか改善したいと願う彼女だが、小学生の勉強ですら躓くレベル。

 国定くにさだ小豆あずきは、勉強も運動も程々にできる。好きなことは読書で、だからこそ国語が得意科目だった。静かなところで一人読書している彼女は前髪で顔を隠し静かに生きていた。別に恋愛やスポーツ等に興味もない。それでも自分の世界で生きていても何も問題なんて起きないと思っていた。


 彼らは皆それぞれのクラスで中学生として成長を重ねていく。どんなに鍛えたってまだまだ中学生で、大きな世の中に巻き込まれていく。

 どんなに想ったってまだまだ上手く伝わらない心の中の想い。それを不器用ながらも伝えていくこと、それが大切だ。

 そして彼らはいつか大人になる。その時までにしていく選択が大人になった時に役に立つかもしれない。

 中学生という不安定な時期だからこそ見られる大人と子供の中間の彼らはきっとこの期間の思い出を大切に持てるはず。


 子は親を選べないという言葉がある。それは事実だろう。そして生徒は先生を選べない。子供には土地を選べない、学校は選べるかもしれないが担任の先生は選べないのだ。

 良い先生もいれば適当な先生もいる。合う合わないはある。そして勿論、勉強を担当する先生も違うわけで、学ぶための恩師を選べない。

 どの先生もそれぞれの想いを乗せて勉強を教えようとするだろう。だが教師だって人間だ。生徒のためと思った行動がいつもその生徒のためになるわけではない。

 咲花先生も新任の先生として奮闘するが、上手くいかない時もある。それは人が人を教えるという道で必ずぶつかる壁だから。


 それでも正しい道への教えは必ず伝わると咲花先生は確信を持っていた。それは先生の自信。ただひたすら生徒たちと向き合う事、生徒たちの話を聞く事、そして生徒たちの行動を見守る事。

 注意と警告と制止の区別。生徒たちに的確に接していく覚悟。そうすれば生徒たちはきっとついて来てくれると咲花先生は信じていた。

 実際に学生時代、そう接して貰えたからこそ今の咲花先生があるわけだが、先生なりのアレンジを加えながら生徒たちに接していく彼女は、いつも笑顔だった。


 小さな体のどこにそんなパワーが秘められているのか、休む間もない教師生活を送る咲花先生は毎日が楽しそうで、活気に溢れていた。

 彼女の元気に当てられた生徒たちは自然と明るくなっていく。無理強いしない先生について行きたいと思えるからこそ、クラスは明るくなっていった。

 勿論、彼女の可愛らしさに……その風貌が小学生の子供のようだからこそ、からかいがいもあってふざけて騒ぐ男子生徒もいる。そんな生徒にも真面目に向き合う先生には女子生徒たちの味方が生まれたり、とにかく咲花先生を中心に一帯となっていく。


 間違いを犯しまくる彼らの中学生活を支えるのは周りの大人たち。子は親を選べない、生徒は先生を選べないように、親も子を選べない、先生も生徒を選べない。

 たとえ違うクラスの子供たちであろうと生徒を見なければいけないのだ。馬鹿なことをする生徒も少なくない。そんな生徒一人一人をしっかり見る咲花先生はとても人気のある先生だった。

 当然だが他の先生だって真剣に生徒に向き合っている。それでもやはり差というものは出てくる。そして他の先生たち自身が咲花先生という存在に惚れ惚れしていたからこそ、それは仕方のない事だった。

 誰にも真似出来ないような可愛らしさと、真剣な心持ちで臨む魂のこもった教鞭が咲花先生の魅力だった。


 小学生とは違う大きくなった生徒たちの、小学生抜けしてない性格の子らや、逆に妙に大人びている子らの、それぞれの心に向き合うことが大切だと思っている咲花先生は聞き上手。

 そして教壇に立っている時だけでなく、休み時間のちょっとした時にも相談に乗る、出来る事を少しでもやれたらいいと思っている先生。

 ホームルームには自分の思っていること、気付いた事をしっかり伝えたりと熱心さを持った咲花先生。それは決して悪に負けてはいけないという教えと、心から正義を愛する気持ちからきていた。

 ニュースで悲しい事ばかり目に映る昨今。咲花先生は心に残るような言葉を言えるようにと、いつも考えていた。


 これは中学生になった彼らと、咲花先生の織り成す物語。恋あり喧嘩ありイベントあり勉強あり。小学生から上がったばかりの彼らが成長していくのをサポートする教師の咲花先生たちの物語だ。

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