億分の一のリブラ

もしくろ

第1話

 ひいおじいちゃんが子供の頃、死刑執行のボタンはたった三人で押していたらしい。

古代のローマの闘技場だって、もっとたくさんの人数の親指で処刑を決定したのに。


 じゃあ、一億ポイントはその三人で山分けしてたのかな、端数はどうしてたのかな――歴史の授業でそれを聞いたときにそんなことを思ったのだけれど、どうやらそうでもないらしい。


 せっかくの死刑執行なのに、ポイント山分けがないなんて。その時代の人たちは何を考えて死刑執行していたのだろう。

 もったいない。


 ◆


 今の死刑執行は、一億ポイント山分けのチャンスだ。


 ケータイ端末に専用のアプリを入れて、指定された時間に指紋認証しながら親指でタッチする。その時ボタンをタッチした人数で一億の社会保障ポイント――Sポイントが山分けされる。

 それは、私たち学生のあこがれだった。


 十八歳になれば成人になって、死刑執行アプリに参加ができる。参加者の少ないタイミングの執行に参加できれば、一回あたり千以上のポイントを貰えるのだとか。

 でも、私みたいな早生まれだと、周りの子がみんなSポイントをバンバン稼いでコスメだって服だって買っている横で、民間のしょぼいアンケートアプリで何とか貯めた百円分をコンビニの割引クーポンに引き換えすることしかできない。


 不公平だと思う。同じ集団に入ってて、同じように生活してるのに、誕生日によってSポイントが貰える子と、貰えない子がいる。


 私もはやく死刑執行に参加したい。

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