生成彼女の悩みごと
逆島テトラ
プロローグ
「またダメかよ。さすがにこの娘を嫁候補にする気にはなれねぇな」
俺は、9回目のトライで生成されたバーチャル・ヒューマンに近づいてその容姿を確認するや否や、空中に浮かんだ『このバーチャル・ヒューマンを削除する』と書かれたボタンを押した。その瞬間に、今まで目の前に存在していた女性は忽然と姿を消した。
これでバーチャル・ヒューマン生成にトライできるのは最後の1回になった。
バーチャル・ヒューマンの消滅を確認すると、俺はバーチャル・ヒューマン確認用ルームから生成用ルームに戻った。いずれも少子化対策庁が仮想空間内に開設した施設で、少子化対策庁が発行する年間アカウントを持つ人間だけが利用できる部屋だ。生成用ルームにはモニターとキーボードを備えたコンソールがあって、そのモニターにはバーチャル・ヒューマンを定義するためのテキストの入力を促すプロンプトが点滅していた。
>山下シンジさん。
>あなたが理想とするパートナーを定義するテキストを打ち込んでください。
>文字数の制限は2000文字以内です
>テキストの入力が終わったら、「Enter」キーを押してください。
>それにより、バーチャル・ヒューマンの生成が開始されます。
山下シンジ@HP:_
だが俺は、安易に次の生成にトライする気にはなれなかった。
せっかく待望のアカウントを手に入れたのに、このままマトモなパートナーを生成できなかったら何の意味もない。もう一度、今までに打ち込んだプロンプトの内容と生成結果の対応付けをチェックして、プロンプトの内容を徹底的に練り直すべきだろう。
俺は今年の4月に少子化対策庁が行った公募に応募して、50倍以上の倍率を突破して『ヒューマン・プロンプター』の年間アカウントを手に入れた。年間アカウントを持っていれば、10回まで『プロンプト・ヒューマン』の生成にトライできる。
「これで非モテの俺でも誰もが羨むような理想の妻と結婚できる!」
年間アカウントに当選したときは天にも昇る気分だった。
そして、ライセンスを得た直後に生成した一人目のバーチャル・ヒューマンはとても可愛らしい女性だった。そう、俺は最初のトライで、ほぼ自分の理想に近い女性を生成することに成功していた。
だが俺は欲を出した。
今考えれば愚かなことだが、俺は迷った末に『試験交際に進む』ではなく『このバーチャル・ヒューマンを削除する』のほうを選んでしまったのだ。
「1回目でこれだけ可愛い子が生成されたんだから。残り9回のチャレンジ枠を使えばもっと可愛い娘を生成できるに違いない」
そう安易に考えたのが運の尽きだった。
「もし、1回目よりも可愛い娘が出ればそこで確定する」
そんなバカなマイルールで生成を繰り返した結果、残るチャンスは1回だけになっていた。
今更悔やんでも仕方がない。全ては後の祭りだ。
だがまだ一回のチャンスはあるわけだ。
「何が何でも最後の1回でとびきり美人の妻を生成してやる」
俺はそう呟いていた。
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