聖女の私を追放するんですか~え、南の島で食っちゃ寝してろ!?~

三毛狐

第1話

「聖女アガベよ。お前をこの国から追放する!」

「この国の結界を維持しているのが私なのに!?」


 陛下のボケに私はつっこんだ。


「結界などもはや時代遅れよ。これからは巨大ロボのタタカエマースが国防を担う。24体もいるぞ!」


 この王様は昔から私に対抗してきた。


 例えば聖女の力で花が咲いたとなれば、植物の急速成長技術を発展させた。


『ふん。ワシだって花ぐらい咲かせられる! ほら見ろ、3日で実もなった!』


 例えば聖女の力で傷を癒したとなれば、国内の医療を怒涛の勢いで発展させた。


『ふん。ワシだって欠損部位の再生ぐらいどうとでもなる! ほら見ろ、骨と骨の間の軟骨を再生させじーさんばーさんらの身長を若いころに戻したぞ!』


 王曰く、聖女の能力はうさんくさい。

 人類が触っちゃいけないなにかに触ってそうで、生理的に無理。

 

 ワシがなんとかする。


 そういうことらしい。


 今回はついに私の追放まで口にした。


「……判りました。国のことは陛下にお任せします」


 国のことが心配だけれど、追放までしたいのなら、従おう。

 名を変え、姿を変え、国内に潜み闇からこの国を守る方針へ転換しよう。

 いつだってサービス残業で乗り越えてきた私なら出来るはずだ。


「ふん。南国に島を用意してある。そこで食っちゃ寝して余生を過すが良い」


 くっ、どこまでも仕事をさせないつもりか!


「本当は働きたくてたまりませんが、仕方がありません。南国で食っちゃ寝して余生を過します!」


 私は悔しそうにそう宣言した。


 こうして私は追放された。


 ☆


 ザバァ……

 ザバァン……


 波の音が心地いい。

 豊富な水量が寄せては返し、夏の暑さを癒してくれる。


「聖女アガベ様、こちらが最高級の……肉と野菜です」


 元が何かも教えて貰えない。

 肉も野菜も未知の味だが紛れも無く美味しかった。


 専属のシェフがつけられ、これがまた腕の良い。


 なんということでしょう。

 国内の食料事情さえ伺えない。


「とてもおいしいわ」

「陛下からは貴女に国内の不安を一切感じさせるなと厳命されております」

「そう……。少しひとりにさせて貰えるかしら」

「畏まりました」


 パラソルの陰でグラスを傾け喉を湿らせる。

 程よく果物を醗酵させたアルコールが胃を熱くする。


 思えば働きづめだった。


 エルフの体感からしても長い年月を働いたと思う。

 私もあの人も未だに肉体は若いけれども。


「アガベ」


 久しぶりの声がする。


「国は任せたはずですよ。陛下」

「ワシに敬語を使うな。ふたりきりの時は良いだろう」

「だったら、その”ワシ”もやめたらいかが?」


 見ると隣に国王オルベールがいた。

 空間跳躍で来たのだろう。


「お前は自由だ。仕事のことはもう考えなくていい」


 オルベールが続ける。


「だからそろそろ、約束どおり……俺のことを考えてはくれないか?」

 

 学生の頃から一緒だった。

 この国の為を願い、いつも切磋琢磨していた。


 この国の為を理由に、ずっと考えるのを避けてきた。


 いつか聖女が不要になったら――――


 卒業式の放課後、彼からの告白に返した言葉だった。


 聖女が不要になったら、少しはあなたのことも考えてあげると。


「少しは、考えたわよ」

「そうか」

 

 対抗されるたびに意識はしていた。

 仕事を奪われるたび本当はドキドキしていた。


 だから自分から人払いをしてオルベールが飛んで来やすい状況を作った。


「王になった癖に結婚もせず愛人も作らず、変わらず私のことを見ているのだもの」

「当然だ」


 私はこの国の為に尽くしてきた。

 ここがあなたの国だから。


 私だけが識っている。

 大地の竜脈と繋がる聖女は確かに人柱のようなものだ。

 チカラと引き換えに、命を差し出している。


 オルベールの勘は当たっている。

 聖女の能力はうさんくさく、人類が触っちゃいけないもの。


 私は、エルフの寿命よりも短い、星の寿命と共に散るだろう。


 もっとも、それはまだ何億年も先のことだけれど。


「聖女を廃業するわ」


 国の為に身を捧げるのは辞めよう。

 聖女のチカラを使わなければ、竜脈との繋がりが薄くなる可能性がある。


 いざというときに、私は使い物にならないかもしれない。

 それでも――


「責任を負ってくれるのでしょう?」

「……ああ。任せてくれ。これからは……これからは俺の隣にいてくれ……」


 ずっといたのにね。

 でも言ってあげない。


「オルベール」


 起き上がると、私はオルベールを抱き締めた。

 私はいつだって行動で示すの。


「私も、好きよ」


 小鳥が啄ばむように短く、私から唇を重ねた。


 何千年ぶりになるだろうか。

 あの日の告白へ、ちゃんと向き合えた。


 私が抱き締められる。


「ありがとう……アガベ……」


 オルベールの嗚咽が聞こえる。

 待たせただけじゃ諦めないのね。

 だからみんな貴方に着いてきた。


 改めてよろしくね。


 ☆


「ワシがやると言っただろう!」

「陛下が遅いんですもの」


 約束どおり私は聖女のチカラを使うのを辞めた。

 代わりにオルベールのチカラを使って国防をしている。


 王城の一室にあるロボの遠隔操作用コックピットに搭乗し、機体を駆っている。


 手元のスティックをガチャガチャしているうちに、感覚的に動かせるようになった。


「おい、さっきからワシは素材集めしかしてないんだが!」

「いいじゃない。根気が必要な作業だもの」


 あなたに任せるわ!


「魔物を発生させ続ける次元の穴、通称『魔王城』はあそこね」


 人の身では危険で、観測はされていたものの近づけなかった魔王城。

 そこへついに到達する。


「これが聖女のチカラじゃない、人類の英知よーーーー!!!」

「お前がそれを言うのか!?」


 かくして魔物の発生はピタリと止んだ。

 脅威も野生動物ぐらいになり、巨大ロボのタタカエマースは数体を残して休眠状態となる。


 いま国は盛大なお祭りをしている。

 魔物の脅威が去っただけではなく。

 私とオルベールの子供の誕生を祝して。


 妊娠が発覚してすぐ、私は魔王城の討伐を決めた。

 やってよかった魔王城討伐。子供たちに栄光あれ!


 オルベールも私も、国民のみんなも、楽しそうに笑顔を浮かべるのだった。

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聖女の私を追放するんですか~え、南の島で食っちゃ寝してろ!?~ 三毛狐 @mikefox

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