パワハラ上司に苛められ退職を迫られたサラリーマン

@samabuu

第1話

沼田「あのさー、お前なんでこんなことも理解できないの?脳みそ入ってんの?」

荒木「すいません...」

(俺の名前は荒木浩太。22才。大学を卒業後、IT企業に入社できたまではよかったが、

毎日上司の沼田に苛められている。

本社での1か月研修を経て、某金融機関の管理システム開発の現場に送られた。

金融に関しての知識がなかった俺にとっては、一からのスタートとなった。

できれば違う現場に行きたかったのだが、新人の俺に現場を決められる権利なんてなかった。

仕事が終わり、帰宅してからも勉強をしていたのだが、知識0からの独学で

理解できるほど甘い世界ではなかった。

そして、この上司の沼田との出会いが俺をさらに追い込むこととなった。)

沼田「こんな計算もできないで、よくうちの会社に入れたね?お前ほんと向いてないよ。」

荒木「すいません...」

沼田「いやいや、謝らなくていいから仕事進めてよ。」

荒木「はい。がんばります。あの、ここの用語ってどういう意味なんでしょうか?」

沼田「そんなの自分で調べろ。そこまで面倒見きれねえよ。」

荒木「調べたのですが、理解ができなくて...」

沼田「だから向いてないって言ってるだろ!退職願いの書き方だったらいくらでも教えてやるよ。」

荒木「・・・」

(こうして俺は徐々に心にダメージを受けていき、やがて完全に自信を失い、

入社わずか3か月で会社を退職することを決意した。)

本社にて、荒木が上司に退職届けを出した。

上司「どうしたんだ、急に。」

荒木「僕にはこの仕事が向いていないということがわかりました。

お願いします。辞めさせてください。」

上司「・・・」

上司「お前の気持ちはよくわかった。

わかった上で、お前にお願いがある。」

荒木「お願い?」

上司「最後に、ここの現場に行ってくれないか?」

上司がパソコンで現場の詳細を見せる。

荒木「・・・金融システム開発の現場じゃないですか。すいません、お断りいたします。」

上司「頼む!1週間でいい!ここの現場に行ってくれ!

ここに、村田さんていう俺の1番信頼できる人がいるんだ。無理だと思ったらすぐに辞めてもらって構わない!

スムーズにやめられるように俺が段取りをつけておく。頼む!」

荒木「・・・わかりました。1週間ですね。1週間経ったら辞めさせて頂きます。」

上司「ああ、ありがとう!それで構わない。」

(こうして俺は上司の言葉に逆らうことができず、1週間だけという約束で村田さんという人が

仕切っている金融システムの現場に行くことになった。

当日の朝、精神的なストレスによる吐き気を我慢しながらなんとか現場に辿りついた。)

村田「君が荒木君だね。話は聞いているよ。よく来てくれたね。」

荒木「よ、宜しくお願いします!」

村田「うん。宜しくね。そんな緊張しなくて大丈夫だよ。じゃあここに座ってね。」

荒木は4人掛けの打ち合わせ用机に案内された。

荒木「はい!わかりました!」

村田「じゃあ、早速なんだけど私が作ったこのテストをやってみてくれないか?」

荒木「え?テストですか?」

村田「うん。今日の君の仕事はこれだけ。わからない問題はどんどん飛ばしてもらって構わないからね。

2時間後に受け取りにくるね。」

荒木「わ、わかりました!」

(テストの内容は、金融の知識に関することだった。

簡単なものから難しいものまでとても広い範囲の問題となっていた。

毎日1時間の勉強をしていたこともあり、半分くらいの問題は解けた。)

村田「どうかね?終わったかい?」

荒木「は、はい。一応。でも半分くらいしかわかりませんでした。」

村田「大丈夫だよ。難しい問題もたくさんあったからね。じゃあ、見させてもらうね。」

村田は荒木の正面に座り、テストを手に取り、少しにこやかにテストを眺めている。

(村田さんは俺の正面に座り、無言でテストを眺めていた。何を言われるかとてもドキドキしていたが、

「きついことを言われたら明日から来なければいいだけだ」と自分に言い聞かせ、

村田さんの言葉を待った。)

村田「なるほど。よく勉強しているね。かなりの努力をしたんだろう。」

荒木「へ?は、はい・・・」

村田「君の優秀さはよーくわかった。ただ、苦手な分野があることも明確に見てとれる。

明日からは、君の苦手な分野を少しずつ無くしていこう。

今日は疲れただろう。本当によく来てくれた。また明日待っているね。」

荒木「え?帰っちゃっていいんですか?」

村田「いいよ。明日から4日間。君の勤務時間は9時から12時までの3時間でいい。」

荒木「わ、わかりました。では、失礼いたします。」

村田「うん。明日も待っているよ。」

(次の日から村田さんの午前中だけの3時間講習が始まった。

村田さんの講習はとても不思議なものだった。

自分が理解できていなかったところ、そして理解できているところを、完全に把握している感じだった。

まるで脳の中を見られていうのではないかと思うほど、適格な講習だった。

そして、あっという間に最終日の講習が終わった。)

村田「以上で私の講義は終了です。1週間、よく頑張ったね。」

荒木「いえ、頑張っただなんてとんでもないです。僕のためにお時間を使ってくださり、

本当にありがとうございました。

正直、もっともっと続けばいいなと思っております。」

村田「そういってもらえると私も頑張った甲斐があるよ。

ひとつ提案があるのだけど、よかったら私の下で少し働いてみる気はないかい?」

荒木「え?」

村田「今の君の知識があれば、十分にやっていけると思うのだけど。

厳しいようであればいつでも言ってくれて構わない。

無理に引き留めることもしないよ。」

荒木「・・・わかりました。やってみます!」

村田「ありがとう。来週から頑張ろうね。」

荒木「はい!宜しくお願いします!」

(こうして俺は不安を抱えながらも村田さんの下で金融システム開発の仕事を始めた。

システムの内容は前の現場とよく似ていた。

しかし、不思議なことに理解できない用語はほとんどなかった。

俺は初めて仕事が楽しいと思えるようになっていった。

そして、あっという間に1年が経ち、プロジェクトも無事完了した。)

村田「荒木くん。最後までよく頑張ったね。本当にありがとう。」

荒木「とんでもないです。村田さんには感謝しかありません。」

村田「これで一旦お別れになるけど、どうか辞めないで頑張ってね。」

荒木「はい!精一杯頑張ります!本当にお世話になりました!」

(こうして本社に戻った俺は、村田さんのおかげで仕事の楽しさを味わえたこと、

自信を取り戻せたことを上司に報告した。)

上司「そうか。よかったな。」

荒木「はい!あの時、僕を引き留めていただいて本当にありがとうございました。」

上司「いやいや、実は村田さんは俺も散々お世話になった人なんだ。

本当だったら役員にだってなれる人なんだけど、いつまでも現場にいたいっていうことで

俺の方が上になっちまったんだ。

元々は俺もお前みたいな状況で、それを村田さんに救ってもらったんだ。」

荒木「そうだったんですね!村田さんらしいな。」

上司「それでー、そのー。」

荒木「どうしたんですか?」

上司「うーん・・・実はお前が最初に行った現場あっただろ?

あそこに行った人間はみんな3か月もしないで休職しちまうんだ。

それで・・・その、人数が足りなくてうちの会社が撤退の危機なんだ・・・」

荒木「・・・わかりました!僕がいきますよ!」

上司「ほ、本当か!?大丈夫なのか?」

荒木「たぶん大丈夫でしょう!」

(今こそ村田さんへの本当の恩返しができる!

その気持ちが俺に100倍の勇気を与えてくれた。)

(そして俺は再び沼田が仕切る現場に戻ってきた。)

沼田「は?荒木?お前また戻ってきたの?いくら人手不足だからってお前じゃなんの役にも立たねえよ。」

(人手不足はお前のせいだろと思いながらも俺はグッと堪え、言った。)

荒木「はい!今度は役に立てるように頑張ります!」

沼田「ふーん。ま、せいぜい頑張ってくださいよ。」

(案の定、職場の雰囲気は前と何ひとつ変わっていなかった。

沼田は俺の時と同様、パワハラで社員達の自信を削いでいた。

沼田のパワハラは当然俺にもやってきた。)

沼田「この前頼んだ資料できたか?当然できたよな?」

荒木「はい。できましたよ。」

沼田「へ?見せろ!・・・」

沼田が資料を乱暴に奪う。

悔しがりながら沼田が言う。

沼田「ふ、ふーん。よくできたじゃないか。

まあ、久しぶりだから簡単なものにしてやったんだ。

ありがたく思えよ。」

(そう言うと沼田は明らかに悔しそうな顔をして席に戻っていった。)

客も含めて10人くらいの会議中。

客「これはなかなか難しい問題ですねー。

沼田さん、なにかいいアイデアはないでしょうか?」

沼田「うーん、そうですねー。すぐには思いつかないですねー。」

荒木「あのー」

客「ん?荒木さんどうされましたか?」

荒木「今考えられてる方法だと、Aをベースに仕様を考えてますよね?

たとえば逆にBをベースに考えていけば簡単になるのではないかと思ったのですが。」

客「なるほど!それはいい考えだ!すばらしい!」

(それからも会議は何度も行われていたが、

いつの間にかお客さんの信頼は沼田よりも俺の方が大きくなっていた。

それと並行して、俺へのパワハラも徐々に減っていき、気づけば完全に無くなっていた。)

(それから3か月後、

新たに一人の新入社員が配属された。

彼女の名前は宮内七海。

沼田は新しい獲物が来たとばかりに例のごとく新人いじめを始めた。)

沼田「君さー。こんなこともわからないの?

これじゃあ、なんの仕事も任せられないよ。」

宮内「す、すいません。」

宮内が泣きながら言う。

荒木「どうしたんですか?」

沼田「あ、荒木・・・いや、宮内さんなんだけど仕様書通りに資料を作ることすらできないんだよー。

これじゃ、会社にいる意味が無いと思ってさぁ。」

荒木「ふーん。ちょっと見せてください。

・・・沼田さん。この参考資料、専門用語が多くて普通理解できないと思いますよ。」

沼田「そ、そうかぁ?こんなレベルで?」

荒木「この参考データもそうだ・・・沼田さん。

宮内さんが本当にこれ、できると思ってます?」

沼田「うーん。というかこれくらいできないと振れる仕事がもう無いよ。」

荒木「この前客先から承認されたプログラミング仕様書を元に

宮内さんにプログラミングしてもらえばいいんじゃないですか。」

沼田「あ、ああ。そういえばあれがあったな。あのくらいならどんなアホでもできるもんな。」

(その瞬間。俺の怒りは頂点に達した。)

荒木「この前の打ち合わせのとき、沼田さんイールドカーブすら分かってなかったですよね?

あれこそ1年もやってればアホでもわかる用語だと思うんですけど。」

沼田「ぐ、ぐぐぐ。」

荒木「ていうかプログラミング仕様書のことすら忘れてたって・・・

脳みそ腐ってるんじゃないですか?」

沼田「ぐぐぐ・・・い、いや最近忙しくてな。」

荒木「今沼田さんがやってるのってAプロジェクトの仕様書作成ですよね?

あんな簡単な仕事やってて何が忙しいんですか?」

沼田「い、いや。他にも今まで休職していったやつらに関する報告書とか作成しなきゃならないし。」

荒木「そんなの休みの日にやれよ!あんたが自分で撒いた種だろ!

とにかく宮内さんの教育担当は俺が変わります!

あなたはアホでもできるAプロジェクトの仕様書作成でもやっててください。」

沼田「ぐぐぐ・・・わ、わかった。じゃあ、任せるよ。」

宮内「荒木さん...ありがとうございました。

私、本当にできない人間で...」

荒木「そんなことない!宮内さんは上司に恵まれなかっただけだよ!

大丈夫!俺が宮内さんを一人前に育ててみせるよ!」

宮内「は、はい!よろしくお願いします!」

(それから俺は宮内さんを初め、現場に配属されてくる全ての新人社員の教育係となった。

村田さんから教わった講習の方法を真似て、社員たちをどんどん成長させていった。

復職した社員たちも今では生き生きと仕事をしている。

もちろん自分の仕事にも一切手を抜かず、次々とプロジェクトを成功させていった。

3年後、気づけばお客さんたちは全ての問題を沼田ではなく、俺に相談してくるようになっていた。

沼田はちっぽけなプライドが邪魔をして社員たちの輪に入れなくなり、次第に孤立していった。)

(しばらくして沼田は退職した。

ストレスによる精神的な病気になったらしい。

どうやら復職した社員達が陰で沼田をいじめていたらしい。

若干かわいそうな気もしたが、全て自分が蒔いた種だ。

これで少しは人の痛みがわかる人間になるだろう。)

(それからすぐに俺は沼田の代わりに課長となり、

他の部署の社員達から羨ましがられるほど、仲の良いチームを作った。)

(村田さんとの出会いが俺の人生を大きく変えてくれた。

まだまだあの人の足元にも及ばないけど、いずれあの人みたいになってやる!

たくさんの社員を俺が救うんだ!)

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