ヤバい話はいらんかね?

アヌビス兄さん

第1話 新幹線に乗っていた男

※本作はカルト氏(仮)より伺ったお話をより正確により、忠実に代筆させていただいていますが、実際の地名等はぼかす形を取らせていただいております。本作で取り扱う事象、場所、事件等を独自にお調べされた際のいかなる責任も負いかねますのでご了承の程宜しくお願いします。


 これはまだ2010年、カルト氏に姓と名があった時の事だそうです。姓名は生命と言っていいくらい大事な物だったとこの時のカルト氏は知る由もなかったと言います。まずカルト氏の紹介をさせていただきましょう。この方は正真正銘の日本人でした。ですが、カルト氏の元々の姓名、戸籍を持ち、カルト氏の元々の住所にはとある別の国の人がカルト氏として今現在生活をしているそうです。予想に容易いと思いますがカルト氏のカルトとはオカルトから代筆の筆者が命名させていただきました。カルト氏曰く。自分と同じようになり変わられている人物がこの日本には数多くいるといいます。それは日がな一日何を考えているのか分からないホームレスだったり、身元不明者として保護される人だったり、カルト氏も自分に起きた事しか分からない為、その全容を知っているわけではないそうです。日本政府は本件に関してある程度の認知はしているようですが、策を講じる事はないようです。日本人を遥かに超える外国人への手厚すぎる保障制度は現在日本が既に植民地化されているからじゃないかと彼は考えているそうです。


 そんなカルト氏が自分自身を失ってからしばらくして立ち直りアンダーグラウンド、所謂アングラと私達の住まうオーバーグラウンドの半々に存在する者となり、そんな生活にも慣れてきた頃、とある仕事の為に新幹線に乗ったそうです。東京駅で買った鯖寿司弁当を食べようと思った時、隣に座った男性が、カルト氏に話しかけるわけでもなく、前の座席に向いたまま。


「私、人を殺した事があるんです」


 と話し出したそうです。これまた厄介な奴が隣に来たなとカルト氏は思って、無視をしようかと思ったけど、周囲の様子がおかしい。人って意外と聞き耳をたてているもので、周囲の座席の人がカルト氏の隣の男性の話を聞きたがっている空気を感じとったので、


「ほぅ、それは一体どういった経緯で人を殺されたんですか?」


 と関わり合いになりたくないなと思ったものの、周囲の期待も無碍にできずにそう聞いてみました。何も返答がなければそれはそれでいいかと鯖寿司弁当を開けて一つ目の鯖寿司を口に運ぶ。


「あれは2000年があと数日で終わろうとしていた頃です」


 この男は、とある国の出身者だというのです。日本語は達者だけれど、たしかにどこかつたない時がある。もうすでにカルト氏は嫌な予感がしていた。この男性は日本でとある宗教団体に一時期お世話になっていたのだという。昨今その宗教団体が話題になるとはカルト氏も思いもしなかったらしいですが……その教団幹部からあるお願いをされたという。


「ほほう、それはどんなお願いを?」


 駅の中にある売店で買った割高のビール、その一本を男性に勧めると「おー、ありがと。ございましゅー」と聞きなれないイントネーションで受け取り一旦乾杯。「にっぽんのビールはおいしいです。久しぶり」といいながら続きを語る。とある家に行って強盗を働いて欲しいというものだ。目的はお金、区画整理だかでそこの家は多額の立ち退き費用をもらったらしい。それを奪ってこいと、そういう簡単な話らしい。

 がカルト氏がその自称人殺しの男性の話を聞いた時、耳を疑ったそうです。三階建ての家で、一家四人が就寝中に二階の窓から侵入、丁度入った部屋で寝息を立てていたその家の長男の首を絞めて殺害、その後にその騒動に気づいて二階に上がってきたその家の大黒柱を道中で購入した包丁で殺害。殺害時に刃が折れたまま屋根裏部屋である3階で寝ていた妻と長女を折れた包丁で襲撃、殺しきれなかったので台所に包丁を取りに行き現場に戻ると長女の手当をしようとしている妻の姿があったので、調達した包丁でトドメをさしたのだという。

 カルト氏はこの時、おいおいおいこれあの事件じゃないのかと思いながらも、


「殺害した後どうしたんですか?」


 とナチュラルに尋ねてみると、依頼主が逃亡の手助けをしてくれるという事で近くにくる手筈だったらしい。が、待てども待てども助けの者はこない。空腹を感じたので冷蔵庫にある物を食べたり、インターネットをして過ごしていたが、助けにこないと判断して逃亡。一家の父親ともみ合いしていた時に負傷したまま電車を乗り継いで、依頼主の元へ、そこから海外に行く為の準備をしてもらい長い事海外にいたらしい。


「日本人、怪我も治療してくれて逃がしてくれるから私はすきです」

「そうですか、で? ところで今回は何故日本に?」

「私が殺した現場が今どうなっているか見に行きました! あー、ちゃんと手も合わせてきましたよ! あの時はめちゃくちゃ怒られました。殺すんじゃなくて脅すだけしてほしかったらしいです。お金もぱぁ、私を逃がすのにお金沢山かかって大損だったそうです。わはははは!」

「そうですか」


 カルト氏は仕事に行くため、途中で下車する事になったそうですが、その男性は最後までニコニコと人懐っこい態度だったそうです。この話を聞いていた人は間違いなくあの社内の中に沢山いたハズなのに、誰も通報しなかった理由は単純に恐怖したからじゃないかとカルト氏は語ります。あの男性の語りぶりは私が犯罪を犯した、誰か私を捕まえてくれではなく、この日本という国は外国人の犯罪に寛容。もし私を通報したらどうなるか分かるよな? という脅しだったように思える。


 かつて、特急でヤクザを名乗る人物に女性が連れていかれレイプされた事件があったが、その時も乗客全員が見て見ぬふりをしていた。当事者でなければ皆、そこにいた人達は情けないだの人間の心がないだの言われるのかもしれない。が、今回この場所にいたカルトさん自身、この男に深く関わってはいけない。

 と心底思ったらしい。


 私達よりほんの少し、この世界……いやこの国というべきなんだろうか? 深淵に半身が浸かっているカルト氏はやはり働く場所も住む場所も深淵に半分浸かっている場所にいるらしく、関わってはいけない事が向こうからやってくるそうです。私がカルト氏と出会ったのは某県某所、何の店が入っているのか全く分からない。店舗が集合しているレンガ造りの建物。その中の一件でお店の店主に面白い人がいると紹介されたのがきっかけで、2022年の6月から今年、2023年の8月までやり取りさせていただいた物を纏めて公開していくつもりです。今現在カルト氏の連絡先に電話をすると全然知らない方が出るわけで、彼が今何処かにいるのか、それとも土の下や海の底にいるのかは分かりませんが、彼がいたという記録として残していければ幸いです。

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