第201話 決着
「ティティ、もう大丈夫だ」
マリア先生は完全に人間だったころの姿を取り戻し、穏やかな表情で寝息を立てている。
「ええ。レイ、あとはレヴィヤを」
「ああ!」
俺はマリア先生の前に出て、英雄の聖剣をレヴィヤのほうへと向けた。するとレヴィヤは表情をゆがめ……。
「くっ! 覚えていろ! セレスティア! 必ずお前を殺してやるからな!」
レヴィヤはそんな捨て台詞を吐いたかと思うと、なんとそのまま窓ガラスを突き破って外へと飛び出していった!
「はあっ!? また逃げるのか!?」
俺は慌ててバルコニーに飛び出した。だが時すでに遅く、レヴィヤはバルコニーから十数メートル離れた場所を北へと向かって飛んでいる。
「待て!」
しかし待てと言われて待つ奴などいない。レヴィヤは当然のごとくそれを無視し、そのまま飛び去っていく。
と、そのときだった。中庭から一筋の矢が放たれ、逃げるレヴィヤの翼に命中した。
「なっ!?」
矢の命中と同時にホーリーが発動し、レヴィヤはバランスを崩す。
するとさらに次の矢が放たれ、今度はレヴィヤの腰に命中した。
「ぐあああっ! なんだこれは!? なぜ光の魔力が!?」
さらに三本目の矢が放たれるが、レヴィヤは体を
「お前は王太子! それにファウスト・ディ・マッツィアーノを殺した男の一人か!」
そう叫んだレヴィヤの視線の先にはテオと王太子殿下、そして弓を構えるキアーラさんの姿があった。
「くっ……その女も光を持っているだと!?」
余裕のない様子のレヴィヤに向けてキアーラさんが矢を放つ。だがレヴィヤはそれをひらりと躱した。
それからもキアーラさんは淡々とレヴィヤに向けて矢を放ち続けているが、すべて避けられてしまっている。いくらキアーラさんが弓の名手とはいえ、さすがにこの状況では工夫しないと当てられないことは分かっているはずだが、
なぜこんなことを?
「ええい! ちょこまかと! モンスターたちよ!」
するとどこに隠れていたのか大量のモンスターたちがテオたちに襲い掛かる。それをテオと王太子殿下が防ぎ、キアーラさんは相変わらずレヴィヤに向けて矢を放ち続けている。
ダメだ! そんな無駄遣いをしたら矢が尽きてしまう!
「キア――」
「レイ、あれって何かの合図なんじゃないの?」
「え? 合図?」
いや、だがそんな作戦は今まで一度も!
……ん? ちょっと待てよ? 矢を避けるとき、レヴィヤは必ず体を右に移動させているような?
「そうか! そういうことか!」
空を飛んでいる悪魔を倒すにはあれしかない。
俺は魔力を練り上げ、キアーラさんが次の矢を放つのを待つ。
そして……。
俺はレヴィヤが矢を避ける瞬間を狙い、ジャッジメントを放った。
一筋の
「がっ!?」
レヴィヤに直撃した
バチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチン!
連鎖が始まった。こうなればもう誰にも止められないだろう。
一方、ジャッジメントの直撃を受けたレヴィヤは
「ティティ! 行ってくる!」
「ええ。お願い」
俺は身体強化を発動し、落下中のレヴィヤに向かって助走をつけて全力でジャンプした。
「これで終わりだ!」
英雄の聖剣にホーリーを込め、さらに勢いと体重をすべて乗せた一撃をレヴィヤに叩き込む!
ゴォォォン!
とてつもなく硬いものを斬った感覚が伝わってくる。
だが、俺の一撃はたしかにレヴィヤの肉体を切り裂いた。
そのまま俺は勢い余って着地に失敗し、地面を少し転がったところでようやく止まることができた。
レヴィヤは! レヴィヤはどうなった!?
急いで立ち上がって周囲を見回すと、五メートルほど離れた場所に真っ二つとなったレヴィヤの死体が転がっているのを発見した。
レヴィヤの死体は
やった! これでやっと!
「レクス!」
王太子殿下の声が聞こえ、振り向く。するとサンクチュアリに守られながら、三人でこちらに向かって歩いてきていた。
「レクス、やったのか?」
「はい。そこで崩れ始めています」
「そうか。あれが悪魔か……」
王太子殿下はそう言って、険しい表情で崩れゆくレヴィヤの死体をじっと見る。
だが、俺のほうはそろそろ限界だ。やはりジャッジメントは魔力の消費が激しすぎる。
「あの、キアーラさん、サンクチュアリに入れてもらえませんか? ちょっと魔力が限界で……」
「もちろん。どうぞ」
「ありがとうございます」
俺はキアーラさんの発動するサンクチュアリの中に入り、自身で発動しているサンクチュアリを解除してへたり込んだ。
するとテオが呆れたような表情で声を掛けてくる。
「しかしレクス、お前無茶したなぁ。しかも、俺らまで巻き添えにしやがって」
「でも、あれしかチャンスはなかったんだから仕方ないだろ。それにキアーラさんの矢、そういう意味だと思ったし」
「まあ、そうだけどよ。ってか、それより人質はどうなった? 解放できたのか?」
「ああ、なんとか。それよりどうして三人は中庭に?」
「王太子殿下が作戦を変えたんだ。ひととおり地下牢とかは調べたけど人質がいなくてよ。そんでどうしようかってなったときに、レッドスライムの後を歩いて行く二人を見つけたんだ。で、このシチュエーションだと人質は悪魔のところだろうから、俺らが行く意味がないってなったんだ。そんで、前の話からピンチになったら悪魔は逃げるかもって王太子殿下が予想して、なら逃げそうな北側で待ち伏せすることにしたんだ」
「王太子殿下、ありがとうございます。おかげで取り逃がさずに済みました」
「ああ」
王太子殿下は満足げに頷いた。
と、そのときだった。突然レヴィヤの死体の残骸から大量の瘴気が噴出し始める!
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次回更新は通常どおり、2024/06/04 (火) 18:00 を予定しております。
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