第200話 覚醒
「マリア先生! やめてください!」
必死にマリア先生に呼びかけつつ、サンクチュアリを発動した。するとマリア先生はたじろぎ、二歩三歩と後ろに下がる。
「何をしている。やれ!」
レヴィヤがそう命じると、マリア先生は自分の周囲に瘴気を集め始めた。そして大量の瘴気を身に
「ティティ!」
俺はティティとマリア先生の間に割り込み、マリア先生を強く押し返した。マリア先生は最初の位置に戻ったが、ティティを狙おうとこちらの様子を
「マリア先生! しっかりしてください! マリア先生!」
「くくく、無駄だと言っているだろう。そいつにもう自我は残っていない。ただの人間の魂が瘴気に耐えることなど不可能だ」
レヴィヤはそう言ってニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
くっ。もう、打つ手はないのか? レヴィヤの言うとおりならもう……。
俺は剣を握る手にぐっと力を込める。
と、突然俺の背後にいたティティが右隣に歩み出てきた。
「ティティ? ダメだ。俺の後ろに――」
「レイ、あなたを信じてるわ。私の手を離さないで。必ず連れ戻してちょうだい」
「え? どういうこと?」
しかしティティは初代マッツィアーノ公爵の杖を取り出した。
「おや? どういう悪あがきだ? それとももう諦めたのか?」
「そんなわけないでしょう。お前の好きにはさせないわ」
そう言うとティティは杖を高く掲げた。するとなんとマリア先生の纏っていた瘴気が杖に吸い込まれていく。
「何ッ!? 馬鹿な! なぜお前が瘴気を!」
「何度も何度も目の前で見せられて、真似できないはずがないでしょう?」
「なっ……見ただけで……だと? そんな……」
レヴィヤはかなり驚いているようだが、まさか見ただけで悪魔の魔法をコピーしてしまうとはさすがティティだ。小さいころからとんでもなく頭がいいとは思っていたが……。
俺はレヴィヤとマリア先生の様子を警戒しつつ、ティティのほうをちらりと見る。
「え?」
視界の端に映ったティティの姿に俺は目を疑った。
なんとティティの頭からは角が生え、白目も黒くなり、さらに蝙蝠のような悪魔の翼が背中から生えてきているのだ。
「ティティ? ティティ! ティティ!」
「う……レイ……」
ティティは苦しそうにしつつもなんとかそう答えた。
「は、ははは。驚かせやがって。人間のお前が瘴気を取り込めば悪魔の血が目覚め、悪魔と化す。特にお前はこの女よりも血が濃いのだ。当然の結果だったな」
レヴィヤはそう言って余裕の笑みを浮かべた。
そうしている間にもティティの肌が徐々に青くなっていき……。
「キェェェェェェェェ!」
ティティはそんな奇声を上げた。
「くはははは。ついに言葉も喋れなくなったな。予定していた死ではないが、自らが悪魔と化すこともまた、セレスティアの惨めな死と言えるだろうな」
レヴィヤは勝ち誇ったようにそう
「あとはセレスティアを支配し、マリアにトドメを刺させれば俺は自由だ!」
そんなこと! 俺は! 俺は認めない!
「ティティ! しっかりしろ!」
そう叫び、俺はまだ人間の手であるティティの左手を握る。
「ティティ! 俺はここにいる! 負けるな! マリア先生を助けるんだろう!」
するとティティは眉間にしわを寄せる。
「ティティ! 俺にはティティしかいないんだ! 戻ってきてくれ! ティティ!」
「う……」
ティティが奇声ではなく、小さなうめき声を上げた。
「ティティ! ティティ!」
ダメか? やっぱりサンクチュアリで浄化をしたほうが――
「はぁ、はぁ、レイ……」
「ティティ?」
「ええ……」
「ティティ! 良かった! 正気に戻ったんだね?」
「……なんとかね。レイ、ありがとう」
ティティの青い肌となった額に玉のような汗が浮かんでいる。
……どうやらティティは全身のほとんどが悪魔のそれとなっているが、左腕だけは人間のまま残っているようだ。
「ティティ、体は大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。でも、今ならお母さまを助けられる」
ティティはそう言うと、マリア先生に杖を向けた。
「さあ、こちらに来なさい」
するとマリア先生はふらふらと俺たちのほうへと歩いてきた。
「何ッ!? 馬鹿な! おい! セレスティアを! その合いの子を殺せ!」
だがマリア先生はレヴィヤの命令に従わなかった。ティティの前までやってくると、ぼんやりとそのまま
「仰向けに寝転びなさい」
マリア先生は素直に床に寝転んだ。ティティは再び杖をマリア先生に向ける。するとマリア先生の体から瘴気が噴き出す。
「レイ、お母さまを」
「ああ」
俺はマリア先生にサンクチュアリを掛けた。
「うっ……」
マリア先生は苦し気な表情を浮かべる。
「マリア先生!」
「レイ、そのまま続けて」
「あ、ああ……」
そうしていると、マリア先生の胸元から赤い血が
これは、もしかして!
ティティはマリア先生の胸に手を突っ込んだ。そして引き抜かれた手にはレヴィヤに埋め込まれた黒い球が握られている。
するとなんと! マリア先生の体が元の姿へと戻っていく!
「馬鹿な! なぜこんなことが!」
「なぜ? 決まっているでしょう? ファウストお兄さまよりも私のほうがはるかに魔力が多かったのよ? 同じ悪魔の肉体になれば私のほうが強いに決まっているわ」
驚愕するレヴィヤに対し、ティティは淡々とした様子でそう言い放ったのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/06/03 (月) 18:00 を予定しております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます