第175話 ファウストとの戦い
「それよりも、ファウストお兄さまをなんとかしないと」
ティティはそう言って立ち上がり、窓から外の様子を確認した。
「……まずいわね」
ティティの言うとおり、状況はかなりまずい。ファウストは動いてこそいないが、庭の草木が枯れている範囲はどんどん広がっている。
しかも問題はそれだけではない。なんと大量に転がっていたモンスターの死体が起き上がり、何事もなかったかのように動いているのだ!
「レイが倒したワイバーンは動いていないわね。あなたの光で倒せば蘇らないんじゃないかしら?」
なるほど! 言われてみればたしかにそうだ。
闇の欠片と悪魔のコアのときといい、一瞬でそのことに気付くなんてさすがだ。小さいころからいつもティティは頭がいいと思っていたものだが、それは今も相変わらずらしい。
「ティティ、戦闘はどれくらいできる?」
「指揮くらいしかしたことないわね。昔から運動が苦手だったのは知っているでしょう?」
「そうだね。じゃあ戦闘は全部俺がやるとして、どうやってあいつを倒す? 剣が通らなかったけど……」
「柔らかいところを狙うとかはできないの?」
「首であの硬さだったからなぁ。もっと柔らかいところとなるとあとは目とかだけど、ちょっと厳しいかもしれない」
「そう。じゃあ、今朝の雷を落とした大魔法は?」
「えっ!? どうしてそれを……」
「どうしてって、見ていたもの」
「ええっ!? 見てた? どうやって?」
「そんなこと、今はどうでもいいでしょ。それよりも、あの大魔法は使えるの?」
「ごめん。今はまだ魔力が回復してないから使えない。一晩寝て休めば使えると思うけど……」
「その余裕はないわね。ほら、ファウストお兄さまが動き出したわ」
ティティの言うとおり、ファウストは翼を広げ、ふわりと宙に浮き上がった。そして一直線に俺たちのいる部屋へと向かってくる。
「レイ、剣が通らないなら光の魔法で攻撃しなさい。きっと効果はあるはずよ」
「わかった! ティティ、下がって!」
ティティを下がらせるとバルコニーに出て、ファウストを迎え撃つ。
「お前の相手は俺だ!」
俺は剣をファウストのほうへと向け、タイミングを計ってホーリーを撃ち込んだ。
「グギッ!?」
ファウストは危険を察知したのか、体を無理やり
まだだ!
一発、二発と撃つが、ファウストはすぐに射程を理解したのか距離を取り、空中に留まっている。
くっ! これじゃあ手が出せない。ここでキアーラさんがいれば光の矢で援護してもらえるのに!
そうして
な、なんだ? 一体何を……?
ファウストは体をぶるぶると震わせる。
無差別モードで黒い弾丸が飛んでくるのか!?
そう思って身構えたものの、ファウストは黒い弾丸を放つのではなく、全身から黒く煙のように濃い瘴気を噴き出した。
もくもくと噴き出しているガスは地上へと流れていき、地上の草木をあっという間に枯らしていく。
しまった! これが充満してしまうと逃げ場がなくなってしまう! 一体どうすれば!
と、次の瞬間、ファウストの背後からワイバーンが襲い掛かった。そのことにまったく気づかず、体当たりを受けたファウストはバランスを崩してこちらへと飛んでくる。
「レイ! 今よ!」
「ああ!」
俺は飛んでくるファウストの前に立つと剣にホーリーをエンチャントし、力いっぱい振り下ろす。
ガキィィィィィン!
まるで金属同士がぶつかったかのような音とともに、俺はファウストを打ち返した。刃は通らなかったがホーリーはしっかり発動しており、錐もみしながら放物線を描いて落ちていくファウストを
ファウストは瘴気の海へと消えていくが、すぐにファウストは飛び上がってきた。
「効いてないのか!?」
「そんなことないわ。かなり効いているわよ」
ティティがバルコニーに出てきた。
「ティティ、大丈夫? またあの攻撃をくらったら……」
「……そうね。でも、レイは助けてくれるでしょう?」
「それはもちろん……」
「でも、ずっと隠れているわけにもいかないわ。ファウストお兄さまの狙いは私だもの」
「ギギギ、ゼレ゛ズディア゛ァァァ!」
ティティの姿を見たファウストは黒い弾丸を放ってきたが、ティティはワイバーンを身代わりにして身を守った。だが、なんと今度はそのワイバーンが俺たちに襲い掛かってくる。
「ティティ!?」
「ダメね。制御を奪われたわ。殺してちょうだい。今のファウストお兄さまの魔力は私をかなり上回っているみたい」
「ああ」
俺はワイバーンをホーリーで撃墜し、再び睨み合いの状態に戻る。
まずいな。このままじゃジリ貧だ。
「ティティ……」
「屋敷の中に誘い込みましょう。このままじゃ勝ち目はないわ」
「ああ」
こうして俺たちはバルコニーでの戦闘をあきらめ、建物の中へと駆け込むのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/05/09 (木) 18:00 を予定しております。
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