第138話 変人王宮魔術師(4)
年が明け、俺たちは生活の場を新しい拠点に引っ越した。ニーナさんも冒険者ギルドでの受付の任期が切れ、銀狼の
というのもすでに銀狼の
そこでニーナさんは受付嬢として働いていた経験を活かして割のいい依頼を選別し、適切な人数で対応できるように割り振りをしてくれているのだ。
しかもきちんとDランク昇格に必要な筆記試験対策の授業もしてくれていて、もはやニーナさんは欠かすことのできないメンバーとなっている。
おかげで俺は時間が取れるようになり、今日はマッシモさんの研究室へとやってきている。マッシモさんに錬金釜を見てもらい、魔道具作りに協力してもらおうという魂胆だ。
「レクス卿から訪ねてくるなんて珍しいのう。今日はなんの用じゃ?」
「はい。実はこれを見てほしいんです」
俺はそう言うと、腕輪になっていた錬金釜を元の形に戻した。
「むむっ!? これは!」
マッシモさんは目をキラキラと輝かせながら錬金釜を観察し始めた。
「レクス卿、これを一体どこで手に入れたのじゃ?」
「カネロにある遺跡です」
「ふむ。カネロで遺跡といえば、北にあるいつのものか分からん古い遺跡じゃな。あそこには何もなかったはずじゃが……」
「そのはずだったんですが――」
俺は錬金釜を発見したときのことを説明した。
「ということはレクス卿の光属性の魔力がトリガーになっておったのかもしれんのう」
「はい。おそらくそうだと思います。属性関係なく、魔力がトリガーなのかもしれませんが」
「いや、その可能性は低いはずじゃ。昔、火属性魔法の使い手として有名な遺跡マニアが探索をしておるからな」
なるほど。そんなことまで知っているとはさすがマッシモさんだ。
「それより、お主はこの遺物を使いこなしておるな? 一体何に使うんじゃ?」
「はい。俺はこれを錬金釜と呼んでいます。用途はポーションやマジックアイテムを作れるというのもあるんですが、この中にマジックアイテムを入れることでどうやって作ったかを解析できるんです」
「ふむ? にわかには信じられんのう。何か作ってみてはくれんか?」
「はい」
俺は錬金釜の中に水を注ぎ、マジックウォーターを錬成した。
「むむ? これは……」
「ここにこの止血草を入れて錬成すれば、レベル1のヒールポーションを錬成できます」
「なんじゃと!?」
マッシモさんは目を見開き、ものすごい勢いで迫ってきた。
「ポーションが作れるのか!?」
「はい。今から作りますね」
俺は止血草を入れ、レベル1のヒールポーションを錬成した。
「できました」
「う、うむ。ちょっと試してもいいかのう?」
「はい」
俺は
するとマッシモさんは一切の躊躇なく自分の腕をナイフで切り、傷口に出来立てのヒールポーションをそっと掛けた。
「おお! まさか! ポーションがこうも簡単に! レクス卿! これは革命じゃぞ! のう! レクス卿! 儂も使ってみたいのじゃ! のう! 使ってもいいじゃろ?」
マッシモさんは少年のように目をキラキラと輝かせながら、ものすごい勢いで俺に迫ってくる。
「もちろんです。マジックウォーターから試してみてください。水と魔力だけですから」
「うむ! うむ!」
俺は錬金釜に残っていたポーションをガラスに詰め、再び水を入れた。するとマッシモさんはすぐに錬金釜に向かって手を突き出す。
「む? むむむ? むむむっ!?」
マッシモさんはそれからペタペタと錬金釜を触り、色々な角度から観察を始めた。
一体何をしているんだ?
困惑しつつ見守っていると、マッシモさんはがっかりした様子で大きなため息をついた。
「マッシモさん? どうしたんですか?」
「うむ。残念じゃ」
マッシモさんはそう言うと、落胆した表情で俺のほうを見てきた。
「ええと?」
「レクス卿、これはとんでもない遺物じゃよ。もしこれが教会伝わっておれば、きっと神器と呼ばれていたじゃろうな」
「はい?」
「良いか? この錬金釜はおそらくレクス卿以外に使えるものはおらぬ」
「すみません。意味が分からないんですが……」
ブラウエルデ・クロニクルにそんな設定はなかったはずだ。
「この手の遺物はのう。最初に触った者の魔力を覚えるのじゃ。そしてその者以外の魔力を受け付けなくなるのじゃよ」
あ! そういうことか!
言われてみればブラウエルデ・クロニクルでも、他のプレイヤーが設置した錬金釜は使えないんだった。
俺が思い出して納得していると、マッシモさんが飛んでもないことを口走る。
「何せ、昔レムロス大聖堂に忍び込んで聖水の壺に魔力を注いだときの反応がそっくりじゃ」
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次回更新は通常どおり、2024/04/02 (火) 18:00 を予定しております。
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