第128話 一触即発
2024/06/19 ご指摘いただいた誤字および人物の取り違えを修正しました。ありがとうございました
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「ニーナさん、こんにちは」
「あら? レクスくんにテオくん、二人ともこんにちは。それと、たしかキアーラさんでしたね。冒険者ギルドへようこそ」
冒険者ギルドに行くと、受付でニーナさんが出迎えてくれた。
「今日はどうしたのかしら?」
「はい。実は俺たち騎士を辞めて、冒険者に戻ることになったんです」
「えっ!?」
ニーナさんは目を丸くして驚き、思わずといった様子で大声を上げた。だがすぐに恥ずかしそうに咳ばらいをして表情を取り繕う。
「ごめんね。それにしても一体どうしたの? 銀狼騎士団なんて、みんなの憧れの職場でしょう?」
「理由は言えないんですけど、色々とあったんです」
「でも……」
ニーナさんは心配そうな目で俺たちを見ている。
「それで俺たちは新しいクランを作って、自分たちで動こうと思うんです」
「クラン? あっ、そっか。レクスくんがAランクだから審査なしでできるわね。分かったわ。じゃあ、申請書を持ってくるから、冒険者カードを用意して待っててね」
ニーナさんはそう言うと、すぐに片足を引きずりながら奥へと消えていく。
「はい、お待たせ。ここに記入して。リーダーはレクスくんじゃないと審査が入るから、レクスくんにしてね」
「はい」
俺は三人の名前を記入し、銀狼の
「銀狼の……顎……」
ニーナさんはそう言うと、一瞬複雑な表情を浮かべた。だがすぐにいつもの表情に戻る。
「はい。ありがとう。それじゃあ三人の冒険者カードを預かるわね」
そうしてニーナさんは冒険者カードを持ち、奥へと消えていった。そしてすぐに戻ってくる。
「はい。まずは冒険者カードを返すわね」
そうして受け取った冒険者カードの所属クランの部分に紙が張り付けられ、所属クランが銀狼の顎へと上書きされていた。
「正式な冒険者カードは来週の月曜日には渡せるわ。それまではこれで我慢してね」
「はい」
「それじゃあ」
ニーナさんはコホンと咳ばらいをすると、ニッコリと微笑んだ。
「冒険者クラン銀狼の顎、設立おめでとうございます。銀狼の顎の未来が栄光に満ちていますように」
ニーナさんはそう言って俺たちを祝福してくれた。
「ありがとうございます。それと、もう一つ」
「はい。何かしら?」
「ニーナさんってたしか、ここでのお仕事の任期がそろそろですよね?」
「え? うん、そうだけど……」
ニーナさんは浮かない表情になった。
「あの、もしよかったらでいいんですけど、任期が終わったら俺たちのクランに来てもらえませんか?」
「え? どういうこと? あたしはもう冒険者としては戦えないわよ?」
「いえ、そうじゃないんです。クランになると、やっぱり新人の面倒とかを見ないといけないじゃないですか」
「ええ、そうね」
「ただ、俺たち、かなり忙しくなると思うんです。だからレムロスで事務仕事をしてくれたり、新人教育をしてくれる人がいてくれるとかなり助かるなって」
「つまり、あたしを非戦闘員として雇いたいってこと?」
「はい」
「うーん、そっかぁ」
ニーナさんは喜んでいるような、困っているような、何やら複雑な表情を浮かべた。するとすかさずテオが割り込んでくる。
「ニーナさん! 俺からも是非! お願いします!」
するとニーナさんはキアーラさんのほうを見る。
「キアーラさん、あなたはどうなんですか?」
「うーん、あたしは判断できるほどあなたのことは知らないですけど、二人がそこまで言うならいいと思います。多分このクラン、ものすごく大きくなると思いますから、ギルドとの間で仕事をしてくれる人は必要だと思います」
「あら、そうなんですか?」
「はい。多分、一気に五十人くらいの新人を抱えることになると思います」
「ええっ!? そんなにですか?」
「はい」
「それならたしかに、事務員が必要ですね……」
ニーナさんは納得した表情となった。
「そういうことなら、ぜひお願いします。あはは、まさかレクスくんとテオくんに雇われるとはねぇ」
ニーナさんはそう言うと、左手で目じりを拭うのだった。
◆◇◆
ギルドから寮に戻ってくると、なんと大勢の騎士たちが集まっていた。
何やらかなり揉めている様子で、銀狼騎士団のメンバーたちと近衛騎士たちが言い争っているようだ。
何があったのかを確認しようと近づいていくと、そんな俺たちの姿を見た近衛騎士が突然剣を向けてきた。
「騎士レクス! 貴様には反逆罪の容疑が掛けられている! 今すぐに同行してもらう!」
「は? どういうことだ? そんな覚えは一切ないが?」
「王妃陛下がそう仰っている! 証拠はそれだけで十分だ!」
「はぁ? お前ら本当に騎士か? 主が生きているのに、他の騎士に仕えろなんてめちゃくちゃな命令に一体誰が従うんだ? お前らは従うのか?」
「そ、それは……」
「我々が受けた命令は騎士レクス! 貴様を連行しろというものだ! 従わないのであれば力ずくでも連れて行くぞ!」
さて、どうしたものか。ここでこいつらを黙らせるのは簡単だが、騎士を辞めた今、近衛騎士とことを構えるのは得策ではない。
どうせ王妃の狙いは俺の光属性魔法だろう。
命までは取られないはずだ。
「分かった。誤解があるようだし、国王陛下にご判断いただこう」
「なっ! すべては王妃陛下のご命令なのだ! 国王陛下に直訴するなどこの無礼者が!」
「おや? お前は俺のことを騎士と呼んでいるじゃないか。俺が騎士として宣誓をしたのは王太子殿下に対してのみだ。ならば俺の主は王太子殿下であって王妃陛下ではない」
「だからどうした! 王妃陛下がご命令なさっているのだ!」
「だが王太子殿下の騎士である俺に王妃陛下は命令することはできない。王太子殿下が不在の時に命令できるのは国王陛下ただお一人だけだ。それでも俺を連行しようというのなら、王妃陛下は国王陛下と王太子殿下の双方を軽んじているということになるぞ。そういう認識でいいか?」
「んがっ!? だ、黙れ! この平民が!」
そう言って近衛騎士の一人が殴りかかってきた。だが銀狼騎士団と比べて相当訓練が
「なっ!? 避けるとは卑怯な!」
「避けると卑怯というのは聞いたことがないな。それより騎士なのか平民なのか、一体どっちなんだ?」
「このっ!」
頭に血が上った近衛騎士はもう一度殴りかかってきたが、俺は再びそれを躱し、そのついでに足を掛けてやる。すると近衛騎士は見事に転び、顔面から地面にダイブしてしまった。
まさかここまで見事に転ぶとは……。
「貴様! 近衛騎士を攻撃するとはいい度胸だ!」
「うるせぇ! 黙って聞いてればいい気になるな! 勝手にコケておいて攻撃とは何様のつもりだ!」
「そうだそうだ! 俺たちは王太子殿下に剣を捧げたんだ!」
「帰れ!」
「帰れ!」
「かっえーれっ!」
周囲で見ていた銀狼騎士団のメンバーたちの堪忍袋の緒が切れたのか、帰れコールを始めた。
「き、貴様ら……」
それに腹を立てたのか近衛騎士たちは剣を抜き、剣を抜いたのを見て銀狼騎士団のメンバーたちも剣を抜いた。
ちょっと待て! さすがにここで流血沙汰はまずい!
そう考え、ボルトを使ってでも止めようと魔力を練り始める。
だがこのまさに一触即発とも言うべきこの危険なタイミングで、恐らく俺の知る中でもっとも空気の読めない男がやってきた。
「おお! レクス卿! こんなところにおったのか! 探したぞい!」
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次回更新は通常どおり、2024/03/23 (土) 18:00 を予定しております。
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