第99話 初訓練

 それから続々と他の騎士たちがやってきた。そのとき初めて気付いたのだが、俺の年齢で騎士になっているものは誰一人としていなかった。光属性魔法が使えるからだろうが、どうやらこれは相当に異例なことのようだ。


「やあ、レクス卿。今日からなのだな」

「あ! クレメンテ卿。おはようございます」


 クレメンテ卿はヴァリエーゼで小隊長(?)をしていた騎士で、ヒールで治療して以来の顔見知りだ。


「ああ、おはよう。よろしくな」

「はい。よろしくお願いします」


 と、突然メルクリオ卿が大きな声が聞こえてくる。


「総員! 整列!」


 すると今まで思い思いに過ごしていた騎士たちがすぐに整列を始めた。俺もその中に混ざろうとしたが、メルクリオ卿に止められる。


「レクス卿はこちらですぞ」

「え?」

「まずは自己紹介をなさらないと」

「あ、そうですね。わかりました」


 すぐに騎士たちは整列し、俺は列の前でメルクリオ卿の隣に立つ。


「敬礼!」


 騎士たちが一糸乱れぬ動きで敬礼した。すると王太子殿下がやってきた。


「ああ、お前たち。おはよう。楽にしていいぞ」


 騎士たちが一斉に敬礼を解く。


「今日は新しい仲間を紹介する。レクスだ。昨日付で騎士となった。十四歳という異例の抜擢だが、実力は十分にある。仲良くしてやってくれ」

「レクスです。よろしくお願いします!」


 紹介されはしたものの、従騎士たちの視線が突き刺さっている。やはり気に入らないのだろうな。


「では訓練を開始するぞ。メルクリオ卿!」

「はっ!」


 こうして俺たちは朝の訓練を始めるのだった。


◆◇◆


 走り込みや素振りなどの訓練を一通り行った。俺の場合はニーナさんに教えてもらった剣術なので、ここでやっている剣術とはかなりの違いがある。


 どうやらここの剣術は対人の、しかも一対一での戦いに重きを置いた剣術のように見える。それに対してニーナさんの剣術は一対多での戦いを想定していて、モンスターをはじめとする力や体格が上の相手をいかにして早く無力化するかということに重きを置いていた。


 個人的にはニーナさんの剣術のほうが俺には合っていると思うが、魔法なしで試合をするとなると、きっと俺は従騎士たちにも負ける気がする。


「では、模擬戦を行う! 模擬戦を行いたい者はいるか!」

「はい!」


 メルクリオ卿の呼び掛けに一人の従騎士の男が勢いよく手を挙げた。


「うむ。ルドヴィーコ、胸を借りたい相手はいるか」

「はい! レクス卿にお願いしたく」


 ルドヴィーコはニヤニヤしながらそう言った。


「なるほど。レクス卿の腕前を披露してもらうのもいいだろう。レクス卿!」

「はい」


 呼ばれて前に出ようとすると、王太子殿下が話しかけてきた。


「レクス、お前の実力を見せつけてやれ」

「え? それだと魔法を使うことになりますけど……」

「私は魔法の力込みでお前をスカウトしたのだ。それに、上下関係は最初が肝心だぞ」

「……わかりました」


 剣術の稽古で魔法を使うのはズルな気もするが、王太子殿下がそう言うなら遠慮なく使わせてもらおう。


 ルドヴィーコの前に立つと、ルドヴィーコがいきなり名乗りを始める。


「我こそはギアロモンテ騎士爵家が三男、ルドヴィーコ・ギアロモンテ!」


 どうやら騎士の家系らしい。年齢もちょうど俺と同じくらいのようだし、よほど俺のことが気に入らなかったのだろう。


「レクスだ」


 短く名乗ると、ルドヴィーコはなぜか表情を歪めた。


「始め!」


 メルクリオ卿の合図と共に、ルドヴィーコは剣を正眼に構えたままじりじりと距離を詰めてきた。


 俺は腰を落とし、身体強化を発動して左にステップを踏んだ。身体強化をしているおかげで、俺は一歩で一メートル以上の距離を移動できる。


 俺の動きに反応し、ルドヴィーコは右足を一歩踏み出した。それを見た俺はすぐさま右に大きくステップを踏んでから一気に距離を詰める。


「なっ!?」


 俺はそのままルドヴィーコの腹に一撃を入れて走り抜けた。


「う、ぐ……」


 ルドヴィーコは苦しそうにお腹を押さえ、うずくまっている。


 手加減をしたとは言え、木剣による一撃をもろにくらったのだ。相当効いたのだろう。


「勝者! レクス卿!」


 メルクリオ卿が勝ち名乗りを上げた。


「う……なんだ? 今のは! お前! そんな邪道な剣を! この卑怯者!」

「卑怯だと!? ルドヴィーコ! お前は何を言っておる!」


 ルドヴィーコの悪態を聞き、メルクリオ卿が激怒した。


「で、ですが! あいつは神聖な剣の試合であんなの!」

「馬鹿者! レクス卿は対モンスターに特化した優秀な冒険者だったのだ! それを王太子殿下が見出し、なんとか説得して入団させたのだぞ!」

「えっ?」


 ルドヴィーコは王太子殿下のほうに視線を送り、それに気付いた王太子殿下は意味深な笑みを浮かべた。


「ルドヴィーコ! もしこれが戦場であればお前は死んでいたのだぞ! 死ねば民を守れぬ! そのような精神で騎士が務まると思っているのか!」

「そ、それは……」

「そもそも! お前は従騎士の分際で騎士であるレクス卿にあいつとはなんだ!」

「で、でも……」

「ええい! 言い訳無用! ルドヴィーコ! お前は懲罰だ!」

「そんな!」


 すると、大きなため息が聞こえてきた。王太子殿下だ。


「ルドヴィーコ、私はそのような精神で騎士が務まるとは思わない。一週間の謹慎を命ずる」


 王太子殿下にもばっさりと斬り捨てられ、ルドヴィーコはがっくりとうなだれたのだった。


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次回更新は通常どおり、2024/02/23 (金) 18:00 を予定しております。

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