第91話 不和

 俺は自分の倒したフォレストディアを次々と解体していく。結局俺が倒したのは十八匹で、そのうち八匹が光の欠片を落とした。角と毛皮も手に入り、初日にしては中々の成果だ。


 ちなみにパーティーでの素材の分配だが、キアーラさん以外の前衛が倒したモンスターの素材はそれぞれのものとなる。


 キアーラさんについては援護が主な仕事なので、それぞれが一定の割合で素材を渡すという約束になっている。


「キアーラさん、素材の分配なんですけど……」

「ええっ? 私に? そんなことできるわけないでしょ? ただ守られただけで、私は何もしてないもの」

「うーん、でもそういうルールですし。それにキアーラさんを狙っているのを横から倒したからあんなに簡単にできたんですし」

「……それはそうかもしれないけど、レクスは私を囮にしなくてもあのくらいできていたわよね?」

「まあまあ。じゃあ、毛皮と角のセットでどうですか?」

「うーん。じゃあ、そのくらいなら」


 キアーラさんは遠慮がちにそう答えた。


「ところでレクス」

「はい」

「あの動き、すごかったわね」

「え? ああ。まあ……」

「普通の人の動きじゃなかったわ。あの一気に加速する感じのやつ、どういう技なの? やっぱり、一家の秘伝の技みたいな感じ?」

「ああ。あれは体内の魔力で肉体を強化してるんです」

「へっ? 魔力?」

「はい。じゃないとあんな動き、できないですよ」

「あー、そう。そうなんだ。魔法が使えるのかぁ。そう。そっか。いいなぁ」


 キアーラさんは魔法と聞き、かなり物欲しそうな表情で俺を見てくる。


「おいおいおいおい、ちょっと待て。もしかしてレクスって貴族なの?」


 ウーゴさんが話に首を突っ込んできた。


「いえ? 違いますよ」

「はあっ!? 平民なのに魔法が使えるわけ? あー、それでその年齢なのにCランクなのかぁ」


 ウーゴさんはそう言うと、オーバーなリアクションで天を仰いだ。


「まあ、いいじゃないですか。レクスがいてくれるおかげで生き残れそうですし」

「たしかにねぇ。あーあ。にしても世の中不公平だねぇ」


 ウーゴさんはそう言うと、ごろりと地面に体を横たえる。その間、リエトさんは何も言わずに黙っていたのだった。


◆◇◆


 その後、リエトさんの指示が大きく変わった。どう変わったかというと、モンスターの襲撃があった時点で即座に俺を前に出し、俺が止めきれなかったモンスターを三人で仕留めるという戦い方になったのだ。


 魔石と光の欠片を独り占めできるのでありがたいといえばありがたいのだが、その戦い方を巡ってキアーラさんとリエトさんの対立が激化している。


 そして今日もモンスターを撃退したあと二人の言い争いが始まった。


「リエトさん! どうしてレクスだけあんなに前に出すんですか! あれじゃあ一人で戦わせてるようなものじゃないですか!」

「あれでいいんだよ。大体、あいつだって文句言ってないだろう?」

「でも! 万が一があるじゃないですか! あたしたちが助けに行ける場所で戦ってもらうべきです!」

「あ? 馬鹿なことを言うな! あんな量のモンスター、どうやって止めるって言うんだ! 何人の冒険者が死んでると思ってるんだ? 昨日だって隣の塚の奴らが三人死んだだろうが!」


 どちらの言い分も分かるが、死者が大量に出るのはこの塚で守るという意味不明な戦い方のせいだと思う。


 もっと密集して配置して、お互いに助け合えるようにするべきだし、モンスターの突撃を止めるような罠を用意しておけばこんなことにはなっていないはずだ。


 それこそ、ロープを張って足を引っかけるだけでも状況がかなり楽になるはずだ。


「あー、俺もリエトに賛成かな。あいつは魔法が使えるんだ。俺らとは違うんだから」

「はあっ!? 何言ってるんですか! レクスは私たちの仲間じゃないですか! それをあんな!」

「うるせぇ! リーダーは俺だ! お前らだって納得したんだ! 命令には従ってもらうからな!」


 ついにリエトさんが強権を発動した。


「ちょっと、レクス! なんとか言いなさいよ! 一人であんな危険なことを!」

「え? あー、うん。そうですねぇ。まあ、矢の援護があればありがたいですけど、今のところは大丈夫ですよ」

「ほら見ろ! レクスだってこれでいいんだ!」

「何言ってるんですか! 矢の援護があればありがたいって言ってたじゃないですか!」


 そんな言い争いをしていると、森のほうから四頭のワイルドボアがこちらに向かってきている。


「あの、言い争っている場合じゃないと思いますけど……」

「ああん?」

「あ! 本当だ! レクス、あんまり一人で突っ込んじゃダメだからね!」

「レクス! ほら! 行ってこい! こっちに近づけるなよ!」

「ちょっと! リエトさん!」


 再び喧嘩が始まった。戦い方はどちらでもいいが、こんなところで喧嘩をするのはやめてほしい。


「じゃあ、とりあえず行ってきますね。戦い方の話はその後っていうことで」

「レクス! ちょっと! 待ちなさい!」


 俺はキアーラさんに小さく手を振ると、一人でワイルドボアに向かって歩きだすのだった。


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 次回更新は通常どおり、2024/02/15 (木) 18:00 を予定しております。

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