第90話 臨時パーティーでの初戦

 俺たちのパーティーは、モンスターの大群が間近に迫っているという北側の防衛ラインに配置された。


 どんな作戦で守るのかと思ったが、どうやらパーティーごとに担当するエリアが決まっているようだ。


 町の北にはこんもりと土を盛った塚が点々と築かれており、その塚を結んだラインが防衛ラインとなっている。塚一つにつき三つのパーティーが割り当てられ、割り当てられたパーティーは三交代制で塚を中心とする担当エリアにやってきたモンスターを食い止めるという仕組みだ。


 ちなみにこの塚だが、目印の他に弓使いが上に登って矢を射るために使うのだそうだ。


 さて、早速指示された場所に向かったのだが、なんとすでにここを守っていたはずの冒険者たちの姿はなかった。


 逃げたのか? いや、違う。モンスターに食い殺されたのだろう。塚の向こう側に大きな血だまりがあり、剣などの遺品が転がっている。


 すでにモンスターの姿はないが、なんとも不吉なスタートだ。


 俺たちは塚の手前側に隠れるようにして配置につき、モンスターの襲撃に備える。


 それから三十分ほどすると、どこかで戦闘が発生したようだ。悲鳴が聞こえてくるので旗色は悪そうだが……。


 やがて悲鳴が聞こえなくなった。やられたのだろうか?


 ギルドから提供された情報には、そこまで危険なモンスターの名前はなかったはずだ。にもかかわらずCランクの冒険者がこうも容易くやられるというのはどうにも不可解だ。


 まあ、見たわけではないので断言はできないが……。


 それからしばらくすると、北の森のほうからフォレストディアの群れがこちらに向かって突っ込んできた。


 数はよく分からないが、数十頭はいる気がする。


 おや? これは中々狩りやすいのがきたぞ。リエトさんはどうやって食い止めるのだろう。


 俺がちらりとリエトさんを見ると、かなり厳しい表情をしている。


「おい、キアーラ。塚に登って一匹でもいいから足止めをしろ。俺らは前に出てあの群れをキアーラに近付けないようにするんだ」


 え? それだけ? なにか作戦はないのか?


 せっかく塚があるんだから、キアーラさんを後ろに下げて塚の影から奇襲するとか、何かあると思ったんだが……。


 だがキアーラさんもウーゴさんも神妙な面持ちでうなずいている。


 あれ? もしかして黒狼のあぎとがすごかっただけで、一般のCランクって実はこんなものなのか?


「おい! レクス! なんかあんのか?」

「あ、いえ。大丈夫です。じゃあ、みんなで突っ込んで止めるってことですね」

「そうだ。キアーラまで近付かれたら終わりだ。なんとしても止めろよ」

「はい」

「俺の合図に合わせろ。キアーラはとにかく削れ」

「わかりました」


 キアーラさんはするすると塚に登り、矢を番える。


 しばらく待っていると射程に入ったようで、矢が放たれる。その矢はしっかりと先頭を走るフォレストディアに命中したものの、その程度では致命傷にはならない。


 そんなことを三度ほど繰り返していると、フォレストディアがもう二十メートルほどの距離にまで近付いてきた。


 合図はまだか?


 ……まだ出ない。遅すぎるんじゃないか?


 十メートルほどにまで近付いてきた。


 おい! どうやってキアーラさんを守る気だよ!


 五メートル!


「もう出ますよ!」

「う……い、行くぞ!」


 リエトさんの許可が出たので、俺はすぐさま身体強化を発動した。


「キアーラさん! ウーゴさんを援護!」


 俺はそう叫び、すぐさまキアーラさんを狙っているフォレストディアの首に一撃を与えた。エンチャントしたホーリーが発動し、フォレストディアは倒れる。


 本当はボルトで動きを止めたかったが、味方が近くにいる状況では巻き込む可能性があるのだから仕方がない。


 ちらりとウーゴさんのほうを確認するが、援護の矢が飛んでいない!


「キアーラさん! ウーゴさんを!」

「あっ!」


 キアーラさんはすぐさまウーゴさんのほうへと意識を戻し、援護を始めた。


 俺はそのままキアーラさんに向かってくる二匹目のフォレストディアを斬り捨てた。すると三列目のフォレストディアはその死体につまずいて転ぶ。


 それに巻き込まれないように俺は横に飛んで躱した。


 後は次々に突っ込んでくるフォレストディアが折り重なり、フォレストディアの突撃が止まった。


「こっちだ!」


 そう言ってフォレストディアの意識をひきつけつつ、折り重なったフォレストディアにトドメを刺して回る。


 続いてリエトさんとウーゴさんのほうを確認する。


 どうやらキアーラさんの援護もあり、二体のフォレストディアをそれぞれ倒している。


 この状況なら!


 俺は再び身体強化を発動し、フォレストディアの群れの後方に回り込んだ。するとフォレストディアはそれに反応し、リエトさんたちのほうに向かっていたフォレストディアの半分ほどが俺のほうに向かってくる。


 俺はわざと追いつかれそうな速さで森のほうへと移動し、十メートルほど移動したところで反転する。再び身体強化を発動すると、数が減ってスカスカになったフォレストディアの群れの中に飛び込み、すれ違いざまにホーリーをエンチャントした剣で次々と斬り捨てた。


 キアーラさんは……無事だ。狙っているフォレストディアはもういない。


 リエトさんとウーゴさんは……まあなんとかなりそうだ。それぞれ三体と二体なので、Cランクなら大丈夫だろう。


 余計な手出しをして素材の取り分で揉めたくないしな。


 そう思って観戦しているうちに、リエトさんとウーゴさんはキアーラさんの援護を受けながらしっかりフォレストディアたちを仕留めたのだった。


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 次回更新は通常どおり、2024/02/14 (水) 18:00 を予定しております。


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