第79話 レシピ研究
四月になり、ガルポーレは本格的な春を迎えた。海賊に捕まっていた奴隷たちはリツァルノへと移送され、俺はひたすらモンスターの駆除をする傍ら、錬金術のレシピ獲得にも勤しんでいる。
雷属性魔法のレベルを上げるのではなかったのかと言われそうではあるが、これはこれできちんと理由がある。
まず一つ目の目的は、上位のヒールポーションを作ることだ。可能ならば、どんな怪我でも一瞬で治せてしまうようなレベルのところまで行きたい。
もちろん上位のヒールポーションが作れたところで、ティティとマリア先生を助けられるかといえばそんなことはない。だが、それがあればたとえば王家など、マッツィアーノ公爵家と戦える力を持つ有力者との取引に使えるはずだ。
もう一つは、マジックアイテムの錬成をしたいのだ。今俺の手元には聖女の首飾りというマジックアイテムがあるが、これは元イベントアイテムであるため、錬成することができるのだ。
であれば聖女の首飾りを解析してレシピを入手し、より上位のアイテムを錬成できれば更なる戦力アップにつながる。
さらに聖女の首飾りのレシピを基に研究し、もし闇属性版聖女の首飾りを作ることができれば、もしかしたら魔力が少ないと言っていたティティの役にも立てるかもしれない。
そんなわけで、錬金術にも力を入れているというわけだ。
さて、ではその進捗状況はどうなっているのかというと、残念ながらまだマジックアイテムを作るところまでは行っていない。さきほどようやく、ブラウエルデ・クロニクルにおける初歩中の初歩ともいえるヒールポーションレベル1のレシピを入手できたところだ。
そのレシピはとてもシンプルで、必要な材料はマジックウォーターと薬草の二つだけだ。
では一体なぜそんなに苦労したのかというと、薬草がどれを指しているか分からなかったからだ。
そもそも薬草とは、薬として使われている草の総称だ。傷薬として使うものもあれば胃腸薬として使うものもあるし、解熱剤や鎮痛剤として使われるものもある。しかも俺は薬草に詳しいわけではないため、生えている草のうちどれが薬草で、どれが雑草なのかすら区別ができない。
そんな状況にもかかわらず、ヒールポーションの材料となる薬草を特定するのには本当に苦労した。
はっきり言って自分だけで特定するのは不可能だったと思う。すべては、近所の子供たちのおかげなのだ。
先日、モンスターの駆除を終えて戻ってきた俺のところに子供たちが寄ってきた。その日はフォレストウルフを退治したのでその大きな毛皮を見せてあげていたところ、一人の子供が転んで膝を擦りむいてしまった。
だがその子は泣きもせず、自分で自分で近くに生えていた草を揉んで傷口に擦りつけており、それは何かと聞いてみると、なんとこの村でよく使われている止血草という草だという答えが返ってきたのだ。
なんでも、この草の汁をつけると血がすぐに止まるのだという。
そこで試しにそれを使って錬成してみたところヒールポーションができ、先ほどようやくレシピを手に入れたというわけだ。
といってもこのヒールポーションは初歩中の初歩なため、ヒールのように命にかかわるような深い傷を治せるような効果はない。少し切れてしまった傷を治す程度のものだ。それでもヒールポーションはヒールポーションだし、深い傷を負ったときにも多少の止血効果と治療効果ぐらいはある。
もしかしたらそれが生死を分けることだってある……かもしれない。
それにレベル1のヒールポーションを作れるようになったということは、これを素材としてさらに錬成し、より効果の高い上位のヒールポーションを作る道が開けたということを意味している。
つまり、ようやく第一歩を踏み出せたというわけだ。
というわけで、本来ならばヒールポーションレベル2の錬成に挑戦してみたいところだが、材料が揃っていないのでまだできない。
ブラウエルデ・クロニクルにおけるヒールポーションレベル2のレシピは、ヒールポーションレベル1、マジックウォーター、そして乾燥した薬草の粉末の三つが必要だ。
というわけで、まずは乾燥した薬草を作るところからスタートする。
もちろんこのレシピで言う薬草が、ヒールポーションレベル1で使った薬草と同じなのかは不明ではあるものの、それ以外に手掛かりがないのだから仕方がない。
もし間違っていたら、リツァルノへと戻ったときに薬師と相談してみようと思う。
俺は薬草をよく洗い、日陰の風通しのいい場所に吊るしていく。
と、そんなことをしているうちに夕方の鐘が聞こえてきた。
お! 今日の夕飯はなんだろうな?
俺は大急ぎで残った薬草を吊るすと、ウキウキした気分でトスカさんの家へと向かうのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/02/03 (土) 18:00 を予定しております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます