第75話 ガルポーレ村の子供たち

 翌日、俺はさっそくモンスターの駆除を始めることにした。


 海賊についても気になって聞いてみたのだが、どうやらガルポーレに居座っているわけではなく、数か月に一度やってきては略奪をしていくのだそうだ。村長によると、騎士団に目をつけられないように各地を転々としているのではないかとのことだ。


 前に来たのは二か月前だそうなので、いつ来てもおかしくはない状況ではあるが、今のところ姿も形も見えない。


 であればまずはモンスターの駆除に手をつけい、そこで少しでもいかずちの欠片を手に入れておけば海賊との戦いでもプラスに働くはずだ。


 そんなわけで俺は今、村を出て近くの野原を歩いている。所々に黄色い花が咲いており、モンスターさえいなければピクニックでもしたくなるほど長閑な場所だ。


 だが村から出てきた俺を待っていたかのようにホーンラビットが突撃してきた。俺は角を掴んでキャッチすると、角を掴んだまま地面に叩きつけ、ボルトを叩き込んだ。


 ちょっと小動物を虐待しているような気分にはなるが、こいつは人間を殺そうとするモンスターだ。自分の身を守るという動物としての当然の本能の代わりに、人間を攻撃するという本能を持っているのだから仕方がない。


 そうしてボルトで息絶えたホーンラビットを素早く解体する。残念ながら今回は普通の魔石だったが……。


 あ! もちろん毛皮も無駄にはしない。村でなめし加工ができるそうなので、そこに依頼するつもりだ。


 というわけで俺は次の獲物を探して歩きだす。するとすぐにホーンラビットが襲ってきたので、先ほどと同様にボルトでトドメを刺す。


 解体してみると、今度はいかずちの欠片が出てきた。


 よしよし、いいぞ。幸先のいいスタートだ。


 だが、残念ながらもうボルトは使えなくなってしまった。ちょっと早いが、あとは村に戻りつつ適当に出てきたモンスターをホーリーで狩ろう。


 こうして俺は初日の駆除を終え、村へと戻るのだった。


◆◇◆


「あっ! 帰ってきた! レクス様! おかえりー!」


 村の入口にある門の向こう側からノーラちゃんが手を振っている。どうやら他にも大勢の子供たちが集まっているようだ。


「ただいま、ノーラちゃん。門を開けるから下がってくれる?」

「はーい」


 素直に門から離れてくれたので村の中に入り、すぐに門を閉じる。


「ねえねえ! どうだった? 何匹やっつけたの?」

「今日はホーンラビットを五匹だけだよ。しばらくはゆっくりやる予定だからね」

「見せて見せてー!」


 他の子供たちも興味津々といった様子だ。


「仕方ないなぁ」


 俺は獲物袋に入ったホーンラビットの毛皮と角を一本取り出した。


「角は尖ってて危ないから、ここで見るだけだよ」

「はーい」


 子供たちは毛皮をぺたぺたと触ったり、俺の持つ角を興味深そうに眺めている。


「あっ! そうだ! この毛皮、どうするの?」

「うん。毛皮職人さんがいるって聞いたけど」

「あ! 知ってる! それアデルモおじさんだ!」

「俺も知ってるよ! アデルモおじさんちはあっちだよ」

「案内してあげる!」

「あたしが案内するの!」

「ノーラばっかりずるいぞ!」


 誰が案内するかで喧嘩が始まってしまった。


「ほらほら。喧嘩しないで、みんなで案内してくれるかい?」

「はーい」


 こうして俺は大勢のちびっ子案内人に連れられ、アデルモという人物の家へと向かうのだった。


◆◇◆


「「「「「「「アーデールーモーおーじーさーん!!!」」」」」」」」


 一軒の家の前に着いた子供たちが大声でアデルモさんを呼んだ。するとすぐに中からブスッとした中年男性がやってきた。


「やかましい! 一体なんだ!」

「あのね! レクス様をね! 案内したの!」

「俺も俺も!」

「冒険者なんだぞ!」


 子供たちは俺を案内したということを必死にアピールしているが、アデルモさんはなんのことだか分からないだろう。


「すみません」

「ああ? ああ、お前が昨日来たっていう冒険者か。ガキを大量に引き連れてなんの用だ?」

「あはは、すみません。今日狩ったモンスターの毛皮の処理をお願いしたいんですけど」

「……二枚寄越したら一枚はなめして返してやる。それでいいな?」

「はい。今日は五枚ですけど、明日以降にも手に入ると思うんで」

「わかった。出せ」


 俺は獲物袋の中からホーンラビットの毛皮を渡した。


「ん? ホーンラビットか。角はどうした?」

「もちろんありますよ。買い取りますか?」

「いや……金はない。何か必要な物はあるか?」

「いや、今は特に。じゃあ、なめし代の代わりにします?」

「いいだろう。角一本で一枚なめしてやる」

「じゃあ、それでお願いします」


 角よりはなめした毛皮のほうが高く売れるのでそのほうがいいだろう。こうして俺はホーンラビットの角をすべて渡し、取引を終えた。


「ねえねえ、終わり? 終わり?」

「え? ああ。今日は終わりかな」

「ホント? じゃあじゃあ、剣術ごっこして!」

「えー? あたしたちと一緒に遊ぶの!」

「違うよーだ!」


 子供たちの中ではなぜか俺がこの子たちと遊ぶことになっており、俺と何をして遊ぶかで喧嘩が始まったのだった。


 いや、俺は遊ぶなどとは一言も言っていないのだが……。


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 次回更新は通常どおり、2024/01/30 (火) 18:00 を予定しております。

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