第67話 コナ男爵領

 その日は受付嬢に教えてもらった安宿に泊まり、翌朝すぐにオピスタレトを出発した。目的地は俺たちの暮らすパクシーニ王国の南東端にあるアプリア伯爵領の領都リツァルノだ。


 話で聞いたことしかないが、アプリア伯爵領は気候も温暖な海沿いの町で、何よりマッツィアーノ公爵領からとても遠い場所にある。


 ではなぜマッツィアーノ公爵領から遠い場所を選んだのかだ、今はマッツィアーノ公爵家の手が届かない場所でもっと強くなるべきだと考えたからだ。


 もちろん黒狼のあぎとのメンバーを探したいという思いはある。だが、俺の今の実力でモラッツァーニ伯爵領に戻る決心がどうしてもつかないのだ。


 というのも、俺が拉致されたとき、わずかにだが男の声を聞いた記憶がある。別れ際にティティがやっていたが、きっとあんな風にモンスターを手足のように使う騎士団がいるのだろう。


 となると、光属性魔法と身体強化だけでは不十分だ。確実にマッツィアーノ公爵家を滅ぼし、ティティとマリア先生を助けるには、最低でも雷属性魔法を自在に使える必要がある。できれば切り札として、光属性魔法と雷属性魔法を組み合わせた雷光複合魔法を一発でもいいので撃てるようになっておきたい。


 とまあ、そんなわけで俺はリツァルノを目指して旅をしており、今は王国中部の山中にあるコナ男爵領の領都カネロにやってきている。


 ここはコーザ男爵領の領都よりも小さな町で、領都と言うにはとても素朴な雰囲気だ。ただ、この季節にもかかわらず雪が積もっていないので、北部と比べればだいぶ過ごしやすそうだ。


 そんなカネロにある冒険者ギルドのコナ男爵領本部で滞在登録をすると、俺は受付のおばさんにこんなことを言われた。


「よそからDランクの人が来てくれるなんてありがたいわ。この町の近くにものすごく古い遺跡があるんだけど、最近そこにモンスターが住み着いちゃって困っているのよ。どうせ依頼を受けるなら、これを受けてくれないかしら? 依頼主はコナ男爵だし、お金はしっかり出るわよ。ランクアップはちょっと無理だけど」

「いいですけど、Dランクでも戦力なんですか?」

「そうなのよ。うちはやっぱり小さな領地だしねぇ。それにモンスターが頻繁に出るわけじゃないから、高ランクの冒険者は来てくれないのよ。それに街道のモンスター駆除は男爵様の騎士団がやってくれているでしょう? だから普段はお金になる仕事が少ないの。ただ、こういうときは冒険者不足になっちゃうのよねぇ」

「なるほど。分かりました。条件次第ではお受けします」

「本当? じゃあまず日当だけれども、討伐に参加してくれている間は一日5リレ支払われるわ。もちろん、休暇の間はなしよ」


 Dランク冒険者に5リレというのは悪くない。いや、田舎ということを考えればかなり奮発していると言えそうだ。


「それから、遠征時の食事や水なんかの必需品はコナ男爵様の騎士団が用意するわ。寝袋やテントは持参してちょうだい」

「はい」


 これもありがたい。味には期待できないが、アルバーノさんが料理をしてくれた黒狼の顎が恵まれていただけな気もする。


「それと、依頼遂行中に手に入れた物はすべて持ち帰っていいわ」

「え? そうなんですか? 遺跡なんですよね?」

「そうなんだけど、もう盗掘されつくしてて、何も残っていないのよ。壁の彫刻も全部はがされているらしいわ」

「なるほど。要するに、魔石と毛皮なんかの素材は貰っていいってことですね」

「そうよ。それに、もし遺跡で何か気になるものがあったら持って行っていいわ。どう? 遺跡に行った記念に壁をはがして持ってきたら?」


 受付のおばさんは冗談めかした様子でそう言うと、パチンとウィンクをしてきた。


「あはは、それ、引っ張りますね」

「もう、いいじゃないの。もうここ数十年、遺跡関連の依頼が出るとみんなやってるジョークなのよ」

「そうなんですね。あははは」


 そのセンスはよく分からないが、とりあえず笑っておいた。


「期間はどのくらいですか?」

「最低一週間からよ。あなたからの申し出がない限りは自動で延長になるわ。最長期間は決められてないけれど、騎士団と合同の任務だから、騎士団が終わりって言ったら終わりね」

「分かりました。受けますよ。その依頼」

「本当? ありがとう! それと、遺跡で面白いものを見つけたら教えてね!」


 受付のおばさんはそう言って再びウィンクをすると、けらけらと楽しそうに笑う。何が面白いのかさっぱりわからないが、とりあえず愛想笑いを浮かべるのだった。


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 次回更新は通常どおり、2024/01/22 (月) 18:00 を予定しております。

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