第68話 カネロジョーク

 依頼を受諾し、俺は早速討伐隊が集まっているという騎士団の詰め所に挨拶にやってきた。


「Dランクのレクスです。よろしくお願いします」

「おう! 俺はカトゥッロ、見てのとおり騎士だ。遺跡のモンスター討伐部隊の隊長をしている。よろしく頼むぞ」


 四十歳くらいの巨漢がそう言って俺を出迎えてくれた。


「ギルドで聞いてると思うが――」


 カトゥッロ隊長は討伐時に騎士団が提供してくれるサービスについてギルドで説明されたことと同じ内容の説明をしてくれた。


「はい。それで、いつ行けばいいんでしょう?」

「ん? いつ? いつってどういうことだ?」

「え? ええと、騎士団が主導してるんじゃないんですか?」

「違う違う。そんなわけないだろう。あくまで討伐は冒険者の仕事だ。前線基地に詰めてる騎士は三人だけで、あとは従騎士と見習いだけで、そいつらの仕事は前線基地の維持管理だけだ。討伐には出ねぇし、隊長の俺も他の仕事と兼任だからな。前線には出ねぇぞ」

「なるほど」

「俺たちはあれこれ指示を出さないからそっちで勝手にやってくれ」

「はい……」


 随分と適当だなと思うものの、スピネーゼでも一区域の駆除を俺たちに丸投げしてきていたし、そんなものなのかもしれない。


「ま、そんなわけだから気楽にやってくれ。ギルドの人員も常駐してるから、細かい手続きとかはそっちでやってくれ」

「わかりました」


 すると、カトゥッロ隊長はニヤッと笑った。


「それと、せっかく遺跡に行くんだ。何かいいものを見つけて来いよ!」


 そう言うと、カトゥッロ隊長は豪快に笑った。意味不明ではあるが、どうやら本当にこの遺跡ネタは彼らにとっての共通のジョークらしい。


「ははは。じゃあ、何かいいものを見つけられるように頑張ります」

「おう! ぷ、ぷくく、ブハハハハハハハ」


 カトゥッロ隊長はこらえきれなくなったようで、腹を抱えて大笑いを始めた。笑いのツボがまったくもってわからないが、険悪になるよりははるかにマシだろう。


 俺はこうして騎士団への挨拶を終えたのだった。


◆◇◆


 翌日、俺は早速討伐隊の前線基地へとやってきた。どうやら規律などあってないような感じのようで、寝る場所すら決められていない。木製の柵で囲われている前線基地の中であれば、どこで寝てもいいのだそうだ。


 常駐しているというギルド職員に話を聞いたのだが、どうやら本当に討伐作戦というものはないようで、冒険者たちがそれぞれの判断で適当に行ってモンスターを駆除し、帰ってくるという形らしい。


 荷物は預かってくれるとのことで討伐に必要のない荷物を預ける手続きをしていると、一人の中年の男が近寄ってきた。年齢は……三十代後半、いや、前髪が後退しているせいでそう見えるだけで、本当はもう少し若いかも知れない。


「よう! 新入りか? 俺はロベルトだ。コナ出身のDランクだ。分からないことがあったらなんでも聞いてくれ」

「ありがとうございます。俺はレクス、Dランクです」

「おお! その年でDランクなんてすごいじゃないか! いくつだ?」

「十三です」

「それはすごいな! 俺が十三のときなんて――」


 ロベルトさんはそれから延々と自分語りを続けた。話を要約すると、十九歳のときになんとかDランクになり、それからずっとコナで冒険者として細々と活動をする傍ら、建設や掃除の仕事などを掛け持ちしてなんとか頑張っているらしい。


 俺の感覚だとそういう状態のことはうだつの上がらないと表現するように思うのだが、ロベルトさんは苦労して頑張っているという認識らしい。


「そうですか。じゃあ俺も負けないように、遺跡で何かいいものを見つけられるように頑張ります」

「お? 遺跡で? うはははははははは」


 試しに言ってみたのだが、ロベルトさんも腹を抱えて大笑いしている。そして気付けばなんと、隣で聞いてたギルド職員まで必死に笑いをこらえている様子だ。


 自分で言っておいてなんだが、一体何が面白いのだろうか?


「いいじゃないか! よそ者なのにカネロジョークがしっかり分かってるじゃないか! ぶはははははは」


 ロベルトさんは完全にツボに入ったようで、そのまましばらく笑い転げていたのだった。


◆◇◆


 荷物を預け終え、俺は早速周囲の地形の下見に向かっていた。モンスターの駆除もそれなりに進んでおり、遺跡の地上部分まではもうそれほど危険ではないとのことだ。


 出現モンスターは地上ではホーンラビットやフォレストディア、フォレストウルフ、ジャイアントラットあたりが主で、遺跡の地下に入るとバンパイアバット、ブラックコックローチが出るようになるとのことだ。


 北部ではあまり名前を聞かなかったモンスターがいるが、まずフォレストディアはその名のとおり、鹿のモンスターだ。スノーディアよりも少し小柄で、鋭い角による攻撃をしてくるが吹雪で攻撃してくることもなければデバフを掛けてくることもないので、不意打ちに注意していればやられることはないはずだ。


 ジャイアントラットは最大で体長五十センチメートルにもなる巨大なネズミのモンスターだ。こちらも攻撃は噛みつくのみで、アサシンラットのように毒を持っているわけではないので問題はない。


 バンパイアバットは要するに吸血蝙蝠だ。吸血鬼とはなんの関係もなく、大きいもので体長一メートルほどになるらしい。こちらも毒を持っているわけではないが、かなりの大群で行動するそうなので注意が必要だ。


 最後にブラックコックローチだが、これは巨大なゴキブリのモンスターだ。ちょっと想像したくないが、最大で体長三十センチメートルほどの黒光りするアレがかさかさと襲ってくるらしい。毒を持っているわけではないが、やはりアレと同様に汚いらしく、魔石を取ろうとすると病気になることがあるので注意するようにとギルド職員に忠告してもらった。


 俺も巨大なアレを触るのには抵抗があるので、忠告はありがたく受け取っておこうと思っている。


================

 次回更新は通常どおり、2024/01/23 (火) 18:00 を予定しております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る