第65話 脱出
聖女の首飾りで想定外の力を手に入れた俺は南に向かうのをやめ、モンスターたちを狩って狩って、狩りまくった。
きちんと数えたわけではないが、おそらく千を超えているのではないだろうか?
そのおかげで大量の光の欠片と魔石を回収することができ、それらをすべて使ったことで目に見えて魔力が強くなった。
今まで魔石は黒狼の顎の活動資金として魔石を売却していたわけだが、どうやら魔力量を増やす鍵はこの魔石にあったらしい。というのも、あくまで体感的な話だが、同じ大きさの魔石と光の欠片を比べると魔石のほうが魔力の増加量が多い気がするのだ。
それに魔石は【無属性魔法】を強化してくれる。おかげで身体強化が使えるようになり、ちょっとした超人のような動きもできるようになった。
このことはブラウエルデ・クロニクルの知識で知っていたのだから、もっと早く使っておけばよかった。
そうすればスピネーゼであんな目に遭わずに済……いや、そうでもないか。結果は変わらなかったかもしれない。
それはともかく、このあたりのモンスターもだいぶ数が減ってきた。残りの食料の問題もあるし、そろそろ魔の森を抜けてしまおう。
そう考え、俺は南を目指して歩き始めた。まだ雪もそこまで深くないので、出発するにはちょうどいい頃合いだったのかもしれない。
周囲にはモンスターの気配もなく、さながらハイキングのようだ。
そうしてなんの問題もなく俺は南へと向かい、最初の野営に入った。
モンスターの出る森において一人しかいない状況で眠るのはリスクがあまりにも大きいが、眠らないというのもまた危険だ。その場合、物理的にモンスターがそう簡単に襲えない場所で野営するというのが最適解となる。
そこで、今回は木の上で眠ることにした。今のところ鳥系のモンスターは見かけていないのできっと大丈夫だろう。
いや、正確にはダーククロウをたまに見かけている。
だがそもそもダーククロウの強さは普通のカラスと変わらないため、群れを見かけたのでない限りは放置しておいても問題ない。
そんなわけで、高さ五メートルほどの木の上で野営するのだった。
◆◇◆
「カァーカァーカァー!」
夜中だというのに、けたたましいカラスの鳴き声で俺は目を覚ました。
なんだ? どうしてこんな夜中にカラスの鳴き声が?
もしや、ついにダーククロウが群れで襲ってきたのか?
そう考えて周囲を見回すが、一羽のダーククロウがどこかへと飛んでいった。
……どういうことだ?
あまりに不可解な状況に困惑するが、すぐに自分がモンスターに囲まれていることに気が付いた。
フォレスト……いや、あの大きさはディアウルフか。
三十匹ほどの群れが俺の休んでいる木を取り囲んでいる。
え? じゃあ、あのダーククロウは……!
ああ、そうか。そういうことだったのか。
俺は喜びを抑えきれず、思わず笑みが零れる。
胸のつかえがとれ、気分が軽くなった俺は魔力を練り上げつつ木から飛び降りた。
高所からの着地だが、これぐらいなら五点着地をすれば怪我などしない。
俺はそうして着地の衝撃を受け流すと、襲い掛かってくるディノウルフたちに次々とホーリーを放つ。
やがてすぐに俺を取り囲んでいたディノウルフたちはすべて動かなくなったのだった。
◆◇◆
その後、俺は無事に魔の森を抜けることに成功した。あれからしばらくしてダーククロウを見かけなかったが、それはきっと魔の森を抜けたということなのだろう。
晴れやかな気分で歩いていると、遠くのほうで女性の悲鳴が聞こえてきた。
気分がいいことも相まって、俺はすぐさまその声のするほうへと向かう。するとそこにはワイルドボアに遭遇し、腰を抜かして怯える少女の姿があった。
格好からして、きっと彼女は近所の村娘のようだ。ということは、彼女を助けてあげれば人里まで案内してもらえるだろう。それにあのワイルドボアを狩れば、当面の資金にも困らない。
一石二鳥とはまさにこのことだ。
そう考えた俺はすぐさま彼女とワイルドボアの間に割って入る。
「もう大丈夫ですよ」
俺はそう声を掛け、剣にホーリーを軽くエンチャントした。そしてワイルドボアに近づいて剣を一閃する。
エンチャントしたホーリーが発動し、ワイルドボアはそのまま力なく崩れ落ちた。
「え? え?」
少女は驚き、ぽかんと口を開けて俺のほうを見ている。
「怪我はありませんか? 俺は冒険者です。村まで案内してもらえませんか?」
冒険者カードを見せながらそうお願いした。すると彼女ははっとしたような表情を浮かべたかと思うと急に顔が真っ赤になり、そしてがくがくと大げさに首を縦に振ったのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/01/20 (土) 18:00 を予定しております。
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