4-5


 隔離教室で授業を受け続けるという今までにない展開になったとはいえ、俺の中学生活はそう変わらなかった。元より教室では誰とも全然コミュニケーションとってなかったしな。30数人在籍していた教室がわずか数人のものとなっただけ。別にどうも思わない。


 そんなことよりも、そろそろ陸上パートに移るとしよう。4月時点で全国大会参加の標準記録を切ったタイムを出して良いスタートを切った。それ以降の部活動ではやる気ある後輩たちが常に個人練習に参加するようになり、日々質問されては教えてやるという賑やかなものとなった。

 しかし例の喧嘩での傷害暴力事件に対する処分として、一か月間部活動に行けなくなった。その間の俺は自宅謹慎なんて自重をするはずもなく、大きな公園にて一人普通に走ったり筋トレしたりと最低限の鍛錬をして過ごしていた。


 自分の走りを弾んだものにより近づける為に、縄跳びやスプリントドリルなんかを取り入れた。弾む動作を実現させるには、とにかく自分から「よいしょ」と上へ跳ばないこと。足が地に着地するのを「待ってやる」のもポイントだ。そして地面の反発だけで上にポーンっていく。自分がバスケットボールにでもなってるイメージをすればより分かりやすい。

 ドリルをこなすにあたって、足の動きと同じくらいに上体のフォームも大事だったりする。特に意識しているのが、上体もついていかせるってこと。足だけを前に行かせてしまうと腰が後傾して猫背など悪い姿勢になってしまう。そうならないよう胴体部も足と一緒に前へ運んでやる。もちろん上体を足より前へいかせるのもダメ。

 あともう一つ心掛けているのが、骨盤から体を動かすこと。手足といった体の末端部から動かすのではなく、骨盤、インナーマッスルといった体の中心部を起点に体を動かすのだ。骨盤から動かしてやるとお尻の筋肉も使えるようになる。そうすることでより無駄のない走りが出来るようになる。

 そうやって中心部(胴体部)から動かしてから末端部を操作していくことを、大人になってから心掛けていき、結果タイムの更新につながった。ただ走ってばかりじゃ矯正出来ない。地味なドリルをこなすことこそがより速い走りにつながるんだ。


 ドリルで動きづくりをした後はたいてい走り込みをする。ドリルでやった動きをさっそく走りに取り入れるのだ。最初は力感が全くリラックスした状態で走っていく。出力は8割前後だ。ゆったり走ることで意識をフォームや接地に向けやすくなり、走ってる最中でも修正することだって出来る。全力で走るのは本番くらいでいい。普段の鍛錬ではとにかく自分の理想の走りをすることに集中している。一本たりとも雑に走ったりはしない。

 例えば本日のメニュー、100m7本1セット(インターバルはウォークバック)。全本とも同じスピード・リズムで走りきった。一本一本の腕振り、膝の角度、接地、ストライド、ピッチなどにも意識を向けながら走った。スピードなど二、三の次。とにかく一歩ごとの動作に気を配って走るのだ。


 筋トレは週に二日程度の頻度に止めている。そして筋トレする日は基本、筋トレ以外のトレーニングをやらないようにしている。本当かどうかは定かではないが、筋トレと有酸素運動を同じ日の中でこなすのは良くない。特に筋トレ後の有酸素運動はダメらしい。せっかくの筋トレ効果が無くなるんだとか。

 そうでなくても筋トレって結構な時間を費やすものだから、走り込みと並行してこなすのが難しい。なので筋トレやる日は他のことをせず筋トレに集中するようにしている。

 で、中学生のうちにやる筋トレだが、まあ自重筋トレで十分だ。腕だったら腕立て伏せ、逆立ち歩き、鉄棒で懸垂。下半身はランジ(大股歩行ともいう)、ジャンプスクワットなど。腹筋と背筋も色んな種目があるから、日替わり感覚で日々こなしている。

 30歳近くになってからは、筋トレはとにかく一回一回を「速く、強く」やるようにしている。俺は短距離選手なので速筋繊維を強くさせたい。つまり最大筋力の増加と筋肥大を目的とした筋トレが必要となる。

 強い負荷をかけ、回数は少なく。とにかく一回ごとに全力を出し、その一回で全力が出せなくなった時点でセットを終える。それを数セットこなす。

 一セットにかかる時間はほんの僅か、休憩をとってまた短時間で一セットをこなす…この繰り返しだ。最大筋力や筋肥大が目的なら、このやり方がベストだ。一度に50回も100回もこなす必要は無い、それは長距離を専門とする奴向けだ。


 さて、今日やる筋トレの一つ目は、誰もが知るおなじみの腕立て伏せから。ただ俺がやる腕立て伏せはちょっと違う。プライオプッシュアウトといって、伏せ体勢から直立姿勢に移行する際に両腕を浮かしてやる。で両手を優しく着地させてやり、またぴょんと浮かしてやる。当然だが普通の腕立て伏せより負荷が強く、キツい。どこまでやれるか一度試してみたが、20回そこらが限界だった。トレーニングではこれを1セット8回、7セットやる。もちろん一回一回全力でプッシュする!

 腕の次は下半身だ。今日は大股歩行をやる。ランジとも呼ばれるこの種目は上げた足を接地させると同時に股関節を深く沈めてやる。その際ゆっくり沈めるのではなく、一気に落とす感じでやる。体はブらさない、腕振りも付け加えてやる。そうやって大股で一歩ずつ丁寧に歩行していくのだ。うん、これも回数重ねていくとキツくなってくる。全力でやればなおさらだ。


 他にも胴体部の筋トレ、腕や下半身の他種目など色々あるが、その詳細はまたのお話。というわけで以上、普段の個人練習のチラ見せパートでした!

 


 5月の中旬、1か月間の謹慎が明けて部活動に戻ってきたのだが、当然陸上部のみんなは俺から距離をとった。あの傷害暴力事件を実際に目撃したという同じ3年部員からは特に距離が感じられた。

 お前らの方から俺の気に障ることをしない限りはこっちからみんなに何かすることはないなどと無害を主張してみたのだが、却って怖がらせてしまった。みんなから見た俺はまさに抜き身の刃物なんだと。


 そういうわけでまたまたやってまいりました、部での孤立。まあ陰湿ないじめ・嫌がらせ行為が無いだけマシなんだけどね。挨拶すればちゃんと返してくれるし。

 というよりも、一人きりになったことで自分の鍛錬により集中できるようになったから、むしろ良いことなのでは?


 ガキの頃から俺はかなりのネガティブ思考なのだが、今回に限ってはけっこうポジティブに捉えることが出来る。ネガティブになって良いのは社会で働くとかその為に組織に属するとかくらいだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る